新・平家物語


溝口健二の遺作から二番目の作品『新・平家物語』(1955)は、若き市川雷蔵出世作となった。このたび、デジタルリマスター版の『新・平家物語』をスクリーンで観て、女性映画の名匠が、貴族社会から一段下に見られていた武家の棟梁として、公家や比叡山の僧侶たちに対抗して、武士の台頭の嚆矢となった清盛の若き日を、重厚なタッチで描いた名作・傑作であった。


新・平家物語 [VHS]

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溝口健二の撮影手法とは、周知のとおり、クレーンを用いた移動撮影であり、ワンシーン=ワンカットで撮られている。平安末期のセットがしっかり組まれていて、しかも、多くの群集を動員した撮影は、いかにも溝口的世界になっている。雷蔵の顔にしては、めずらしく太く引かれた眉が印象に残る。一貫して女性映画を撮り続けた溝口監督にしては、武士階級の台頭という男性原理を前面に押し出した作品であった。


女性としては、清盛(雷蔵)の母役に小暮美千代が起用され、白拍子としての色気が溢れているのに較べて、清盛の妻となる久我美子は、貴族でありながらも、畑を耕し、着物を織るという働く女性で、清楚な美人として撮られている。溝口作品としても、雷蔵と組んだ唯一の作品であり、また、平清盛の青春時代を描いた希少なフィルムとなったことは記憶に値する。


同じようなセットの雷蔵映画といえば『新・源氏物語*1だろう。森一生監督の、この映画とは、まさしく対称的なフィルムである。雷蔵映画として観れば、どちらがどうということではなく、溝口健二が他界する前に、この歴史的監督のもとで、映画を撮ったことは、今では貴重な記録となる。


雷蔵映画としては、伊藤大輔との『弁天小僧』や、市川崑の『ぼんち』、あるいは増村保造の『陸軍中野学校』『華岡青洲の妻』、山本薩夫『忍びの者』など、監督にも恵まれていたことに思い至る。


弁天小僧 [DVD]

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ぼんち [DVD]

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忍びの者 [DVD]

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陸軍中野学校 DVD-BOX

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