サマータイムマシン・ブルース


映画には、「タイムマシン」ものは数多くある。しかし、『サマータイムマシン・ブルース』の面白さは、遠い過去だの、未来へタイムッスリップするのではなく、昨日・今日の間を往復するだけで、これほど、刺激的でスリリングなフィルムを撮ってしまう本広克行とは、もちろんあの『踊る大捜査線THE MOVIE』や『交渉人 真下正義』などの大ヒットメイカーなのだ。その彼が自らプロデュースした作品であり、いわば、本広克行の作家的才能と創造的知性が示されていると言っていいだろう。


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こんな話だ。地方(香川県らしい)のある大学のSF研究会。グラウンドで野球の真似事をして遊んでいた5人の部員(瑛太与座嘉秋川岡大次郎ムロツヨシ永野宗典)と写真部の真木よう子が、部室へ戻ると、もう一人の写真部員上野樹里が部室にやってくる。ちょとふざけた永野の行為により、クーラーのリモコンが壊れてしまう。さて、そのリモコンをめぐって、25年未来の部室からタイムマシンに乗ってきた本多力がやってきたことから、話は単純なようで、複雑な様相を呈してくる。


SF研究会の顧問・佐々木蔵之介によれば、「タイムマシンがあったとして過去を変えたら、全てが消える」との言葉に、一同、ことの重大さに気づくのだが、ちょっとした不思議さの累積によって、すべてが現在に関係してくることが、いくつもの例によって提示される。この驚くべき手腕には、観る者はあっけにとられ、ことの成り行きの不自然さにも妙に納得させられるのだ。


例えば与座が、今日から昨日にタイムスリップしたことで、昨日の野球遊びの背景に今日の与座の写真が写っていたりする。また、銭湯で愛用のシャンプーをなくした与座が、じつは、翌日からタイムスリップしてきた与座が、なくしたと思ったシャンプーを見つけ持ち帰ったためだったと分かる。あれ、時間の逆行ではないか、そんな馬鹿な!などと理屈をいっても有無を言わさぬ映像には勝てない。


グラウンドの隅にあるカッパの銅像とは、実は、99年前にタイムスリップした永野だったこと。また、瑛太が、前日へタイムスリップしたのに、現場の部室には部員がいたため、ロッカーの中で一日過ごして翌日を迎える。つじつまがあっているようで、どこかおかしい。そのおかしさが、ユーモアとなって、このフィルム全体の通奏低音として機能しており、笑いのツボと不思議なねじれ感覚の中に誘われる。


出演者のキャラクター群を、見事に造型しているし、一応主演の瑛太上野樹里の未来がそれとなく暗示されもする。レトロ感覚満載の一味も二味も異なる優れたタイムマシン・ムービーだ。


イデアの素晴らしさと、スピード感覚抜群の映像、エネルギーに満ちた好奇心が引き起こす笑い、どれをとっても文句なし。実に、楽しく面白く観ることができた。
エンディングのあと、冒頭から見直したくなるフィルムである。


『サマータイムマシン・ブルース』公式サイト


本広克行監督作品

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