フレンチなしあわせのみつけ方
シャルロット・ゲンズブールといえば、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンを両親に持つサラブレット女優。パートナーであるイヴァン・アタルは、監督と映画のなかでも夫役を演じている。『フレンチなしあわせのみつけ方』(2004、仏)は、中年男性3人がいつも連れだち、恋愛や浮気や結婚の是非についてあるときは生真面目に、またあるときはふざけながら常に女性が話題の中心となっている。いかにも、フランス映画の恋愛談義が、全編に満ち満ちており、エリック・ロメールのフィルムを想起させるが、実は、ジョン・カサヴェテスを意識したフィルムなのだ。
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シャルロット・ゲンズブールとイヴァン・アタルには、幼い息子がいるが、どうもイヴァンは浮気をしている様子。アラン・シャバとエマニュエル・セニエ夫婦は、妻がフェミストであるため、アランはいつも妻のぐちをこぼしている。一方、アラン・コーエンは、一見さえない風貌だが、めっぽう女性にもてる。ドイツ女性からイタリア女性へと、連日新しい女性と交際している。イヴァン・アタル、アラン・シャバ、アラン・コーエン、この三人の男性は、カサヴェテス映画(『ハズバンズ』)の男たちのように、浮かれている、ようにみえる。浮かれたあとのむなしさがカサヴェテス映画の真骨頂であったが、このフランス映画には、<むなしさ>の気配はない。
夫が浮気をしていることを知るシャルロット・ゲンズブールは、CDショップでハリウッド大物男優J・D(カメオ出演)と隣合わせる。J・Dは眼がねに髭という出演した映画の探偵役の雰囲気そのままで登場する。ラストでは、再会したシャルロット・ゲンズブールとあるいは、浮気を?と連想させる。
イヴァン・アタルの両親役には、クロード・ベルとアヌーク・エーメの貫禄ある二人。老夫婦が、レストランで周囲の喧騒とは関係なく、黙々と食事をしている。食後のあと、夫は妻にやさしくコートをかけてあげる。その仕草は、40年連れ添った夫婦の渋い味わいをみせる良いシーンだ。
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この映画のなかで奇妙な印象を受けるのは、シャルロット・ゲンズブールとイヴァン・アタルが、ケチャップやマヨネーズや生たまごなど、台所のあらゆる材料を用いて、それらを相手に向けて投げ合うシークェンスだろう。夫婦の鬱屈した不満を発散させているようにみえるけれど、果たしてそうだろうか。むしろ、そこで行われる行為は、セックスの代替行為の隠喩として読むことが可能だ。恋愛が愛へと変容し落ち着いてくるはずの夫婦に危機が訪れていることの表現にほかならない。
斉藤環が述べていた*1ように、日本の夫婦の場合は子供ができ、家庭的に落ち着くとセックスレスになる比率が高いという。恋人→妻→母へと「女性」は変貌する、いや、変貌させられる。こんな読み方は、あまりに日本的すぎるかも知れない。この日本的法則は、フランス映画にはあてはまらない。男と女の関係は、キンゼイ博士ではないけれど、すべて異なるのだろう。従って、『フレンチなしあわせのみつけ方』も、男性から視た家庭であり、男女の関係の一例にほかならない。
それにしても、プレイボーイであった独身主義者のアラン・コーエンは、交際相手が妊娠したからといってあっさり結婚をしてしまう。おいおい、それでいいのか?
とまれ、様々な男女の恋愛方程式のフランス風味付けの見本のような映画だ。
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■カメオ出演のJ・D主演作(これはネタバレですね)
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*1:『ちくま』2005年7月号掲載「家族の痕跡23」だったと思うが、いま手元にない。