奥さまは魔女
アカデミー賞女優ニコール・キッドマンが「魔女」を演じるという話題性。なにより、ニコール・キッドマンがコメディに出演しているだけで、嬉しくなってしまう。60年代のアメリカンドラマ『奥さまは魔女』の映画リメイク版。監督は、女流のノーラ・エフロンとくれば、見逃す手はない。
ラヴ・ストーリーの達人監督、しかも『めぐり逢い』や『桃色の店』リメイクで、高い評価を得ているノーラ・エフロンが、ドラマ版『奥さまは魔女』をそのままの形でリメイクするわけはない。平凡で普通の恋愛にあこがれている魔女ニコール・キッドマンが、落ち目の俳優ウイル・フェレルに、素人女優としてのサマンサ役にと、TVドラマへの出演を誘われることで、TVドラマを入れ子方式とする映画に仕立てたのだ。
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美人で背が高く、観るだけでほれぼれするニコール・キッドマンが、コメディ俳優ウイル・フェレルに恋をするという設定自体が通常はありえない。恋に恋するニコール・キッドマンは、ダメ男から「必要とされたい」と願うのだから、このコンビに監督の意図が視えてくる。男女の「恋愛」への想いのすれ違いとは、ノーラ・エフロンの変わらざるテーマなのだ。『恋人たちの予感』『めぐり逢えたら』『ユー・ガット・メール』において描き続けた男女の愛の純粋なかたちが、『奥さまは魔女』を拝借して実現しているのだ。
映画は、TVドラマを視聴者の前で舞台劇のように演じる、いわば劇中劇スタイルは、ドラマ製作現場という環境におくことで自然となり、しかも、そこで、落ち目のわがまま男優の添え物的に扱われることに、怒りを覚える魔女は、ついつい魔法を使ってしまう。そのあたりの、ギャグの冴えも素晴らしい。
ニコール・キッドマンの父親に、イギリス紳士のマイケル・ケイン、ドラマ上の母役にシャーリー・マクレーンとう贅沢な脇役を配して、しかも、見せ場をふんだんに用意しているのだから、観るものは、ひたすら楽しめばよい。
ドラマは、60年代の設定を引き継ぎ、平和で安定した家庭の些細な問題が取り上げられるのだが、その背景には、現代の魔女ニコール・キッドマンが、魔女役サマンサを演じ、ダメ男優に恋しながらドラマを撮るというそれ自体がギャグにほかならない。女性心理*1の体現、女性の眼で捉えているからこそ、優れたコメディになっているのだ。
これら、様々な困難な課題を見事にクリアして、なおかつニコール・キッドマンのスタイルと美貌を際立たせている手腕は、只事ではない。古風なコメディのリメイクとあなどると、とんでもない仕掛けが待っている。優れたフィルムとは、脚本・演出・俳優が揃うことにあるが、さらに、女性監督ならではのファッションセンスが素敵で、ほとんど文句のつけようのない映画になっている。もちろん、この映画が、○○賞に相応しい傑作などと宣伝したいわけではない。一見普通のコメディ映画がいかに奥深い内容をもち、観るものに大きな満足感を賦与するかの見本のような作品になっている稀有な例であることを、声高く評価したい。
■ノーラ・エフロン脚本・監督作品
・ロブ・ラーナー監督作品の脚本を担当
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