2006-01-01から1年間の記事一覧

インサイドマン

最近観た映画で、予想外に面白かったのは、スパイク・リー『インサイドマン』であった。『インサイドマン』は、単なる銀行強盗映画ではない。アメリカ社会が抱える人種問題や格差社会などが、いたるところに仕掛けられている。冒頭、クライヴ・オーウェンが…

M:i:III

『ミッション・インポッシブル』の第三作『M:i:III』は、娯楽映画としても、また、ヒッチコック的ムービーとしても十分に楽しめた。現役を引退し教官として勤務していたイーサン・ハント(トム・クルーズ)のもとに、元訓練生の救出命令がでる。まさに、ハン…

夜の公園

川上弘美『夜の公園』は、ほんわかとした文章は相変わらずだけれど、内容的にはリアルで現実的な要素が入りこんできた。リリと幸夫の夫婦とその危機、悟と暁の兄弟、リリの女友達春名、幸夫の職場の仲間高木憲一郎などの人物を配し、リリの視点、幸夫、春名…

王になろうとした男

気になる映画作家の伝記および自伝が、相次いで出版された。手元に3冊の本がある。いずれも未読了。*1 ①アントワーヌ・ド・ベック、セルジュ・トゥビアナ共著、稲松三千野訳『フランソワ・トリュフォー』(原書房,2006.3)フランソワ・トリュフォー作者: ア…

戦後日本の「考える人」100人100冊

季刊誌『考える人』17号は、『戦後日本の「考える人」100人100冊』特集を組んでいる。この種の企画が好きなので、ついつい購入した。100人は以下のとおり。 芥川比呂志、網野善彦、有元利夫、有吉佐和子、猪谷六合雄、生田耕作、池田三四郎、イサム・ノグチ…

バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか

『バックラッシュ!』がやっと手元に届いたので、とりあえず宮台真司、斎藤環、小谷真理、上野千鶴子の4人の論説と高校教諭・長谷川美子の報告*1を読む。もっとも説得力が高いのは、斎藤環の「バックラッシュの精神分析」だった。 バックラッシュ! なぜジェ…

山田稔 何も起らない小説

セミナーシリーズ*1鶴見俊輔と囲んで・4『山田稔 何も起らない小説』(編集グループ・SURE, 2006.7)を読む。シリーズとしては4だが、鶴見俊輔を囲む会としては、第一回のゲストが、山田稔氏。山田氏の作品は、講談社文芸文庫の『残光のなかで』のなかの二…

バックラッシュ!

双風舎さんが6月26日に発売した『バックラッシュ!』について、一言述べておきたい。この本に関しては、事前のパブリシティ、とりわけネット社会を巧みに利用した一種のキャンペーンを行ってきた。 <『バックラッシュ!』発売記念キャンペーン>なるブログ…

漱石という生き方

漱石という生き方作者: 秋山豊出版社/メーカー: トランスビュー発売日: 2006/05/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 3回この商品を含むブログ (5件) を見る 岩波版『漱石全集』を、二種類持っている。菊判とB6版。漱石の原稿を忠実に編集したのが、B…

ブロークン・フラワーズ

ジム・ジャームッシュの七年ぶりの長編『ブロークン・フラワーズ』は、短編の集積であった前作『コーヒー&シガレッツ』の「幻覚」で出演したビル・マーレイを、老いたドンファン役に配し、自らの過去に遭遇せざるをえない設定にして、20年前に別れた女性四…

嫌われ松子の一生

『下妻物語』に、一種カルチャーショックを受けながらも、深田恭子と土屋アンナの異世界の女性同士が、奇妙な連帯感を持つに至る経緯を、カラフルでパワー溢れる映像で見せていたことに驚いたものだ。さて、監督・中島哲也は、これまでの映画文法を完全に無…

花よりもなほ

是枝裕和による時代劇『花よりもなほ』には、期待がかかる。岡田準一、宮沢りえ主演とくれば、なおさらのこと。時代は元禄、あの赤穂義士の討ち入り前後に設定されている。山本博文『日本史の一級史料』によれば、歴史史料で一級史料が多いのが「忠臣蔵」だ…

文士の生魑魅

文士の生魑魅作者: 車谷長吉出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/05/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (15件) を見る 車谷長吉『文士の生魑魅』読了。内容としては、『文士の魂』の続編の趣だが、読書遍歴としては、同工異曲のもので、「うち嫁はん…

同時代も歴史である

坪内祐三『同時代も歴史である 一九七九年問題』(文春新書)は、坪内氏の政治的論考と形容していいだろう。坪内氏の書物について語る姿勢や、本へのこだわりに寄り添ってきた者にとって、ついに来るべき時がきたという印象が強い。福田恆存の「アンティゴネ…

今村昌平・黒木和雄

遅ればせながら、今村昌平(1926.9.15. - 2006.5.30)と黒木和雄(1930.11.10 - 2006.4.12 )両氏に哀悼の意を捧げたい。きわめて個性の強い優れた監督の不在が、日本映画界の大きな空白にならないことを祈りたい。今村昌平監督、黒木和雄監督には、個人的に…

かもめ食堂

かもめ食堂作者: 群ようこ出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2006/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 30回この商品を含むブログ (240件) を見る 『バーバー吉野』と『恋は五七五!』の荻上直子が、群ようこに原作を依頼した『カモメ食堂』は、アキ・カウ…

間宮兄弟

江國香織原作の『間宮兄弟』は気になっていたが未読。それが森田芳光によって映画化された。映画のみで語るとすれば、まぎれもなく森田ワールド満開の世界になっている。 間宮兄弟作者: 江國香織出版社/メーカー: 小学館発売日: 2004/09/29メディア: 単行本 …

VOL

思想誌の創刊が相次いでいる。これまでのところ、老舗の『現代思想』と『大航海』(いずれも三浦雅士の創刊編集)くらいしかなかったのが、ここにきて、創刊ラッシュともいえる現象が見られる。もちろん、新しい世代による思想誌の創刊は歓迎されていいだだ…

村上春樹論

小森陽一『村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する』(平凡社新書)は、村上春樹論の中でも全否定に近い批評になっている。オイディプス神話、バートンの『千夜一夜物語』、漱石の『坑夫』『虞美人草』、カフカ『流刑地にて』などに言及しながら、日本の戦中…

家族のゆくえ

家族のゆくえ (学芸)作者: 吉本隆明出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/02/23メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 8回この商品を含むブログ (17件) を見る 吉本隆明関係本がこのところやたら目につく。多くは、再編集ものや聞き書きなどだが、自ら書き下…

カミュなんて知らない

大学の正門で携帯電話から主役の代役を依頼している前田愛、そこへバイクで正門から入ってきて彼女に話しかける監督の柏原収史。柏原を見つけた恋人吉川ひなのはストーカーのように彼を追いかけている。鈴木淳評と伊崎充則が映画の冒頭長まわしシーンについ…

「性愛」格差論

斎藤環と酒井順子の対談、「おたく」と「負け犬」を代表する論客とエッセイストの対談となれば面白くないわけはない。抽象的な思考で語る斎藤環と、現実の些細な差異にこだわる酒井順子の対話は、通常では交差しないように見える。しかし、本書を読むと、あ…

アメリカ,家族のいる風景

前作『ランド・オブ・プレンティ』が、アメリカを描きながらも、いまひとつヴィム・ヴェンダースの意図が空回りしていたことを指摘したが、最新作『アメリカ,家族のいる風景』(原題:Don't ComeKnocking,2005)では、『パリ、テキサス』のサム・シェパード…

ブロークバック・マウンテン

広大な山並みと美しい風景。抜けるような青空。カウボーイ達へのオマージュと挽歌とも言えるアン・リー監督『ブロークバックマウンテン』は、ひたすら美しい背景のなかで、楽園を体験した者が、世間から受ける仕打ちに耐えながら20年間の間、友情と愛情を…

V フォー・ヴェンデッタ

『グーグルGoogle』から、最近観た『V フォー・ヴェンデッタ』を連想したといえば、強引になるだろうか。 Vフォー・ヴェンデッタ (竹書房文庫)作者: スティーブムーア,デイビッドロイド,ウォシャウスキー兄弟,Steve Moore,the Wachowski Brothers,山田貴久出…

グーグルGoogle

佐々木俊尚『グーグルGoogle−既存のビジネスを破壊する』(文春新書)読了。グーグルに関しては、梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書)*1に次いで、ネット社会の現在と未来を予想するきわめて興味深い内容になつている。 グーグル―Google 既存のビジネス…

『ヴィーナスの誕生』視覚文化への招待

みすず書房の「理想の教室」シリーズは、充実している。拙ブログでも何回か取り上げたが、岡田温司『『ヴィーナスの誕生』視覚文化への招待』は、絵画を視て楽しむ方法の導きになっていて、大変楽しく読むことができた。 『ヴィーナスの誕生』視覚文化への招…

百輭先生月を踏む

久世光彦(1935−2006)は、小説を書きはじめた動機として、「私が五十歳を過ぎて、何を今更と言われながら、ものを書きはじめた動機の一つに向田邦子への嫉妬があった。」(『昭和恋々』)と述べている。TVドラマの演出家として、向田ドラマを演出しながら…

帝国

アントニオ・ネグリとマイケル・ハート『帝国』(2003)の原書刊行が2000年であったこと、その後、2001年9月11日のツイン・タワーへの攻撃があり、アフガン・イラク戦争へ転回していったのは周知のとおりだ。にもかかわらず、20世紀が「戦争と革命の時代」で…

世界共和国へ

柄谷行人『世界共和国へ−資本=ネーション=国家を超えて』(岩波新書)読了。著者によれば、『トランスクリティーク』およびその続編を、専門的ではなく、「普通の読者が読んで理解できるようなものにしたい」と新書のかたちに書き下ろしたそうだ。 世界共…