「性愛」格差論
斎藤環と酒井順子の対談、「おたく」と「負け犬」を代表する論客とエッセイストの対談となれば面白くないわけはない。抽象的な思考で語る斎藤環と、現実の些細な差異にこだわる酒井順子の対話は、通常では交差しないように見える。しかし、本書を読むと、ある種知的な男女の関係とは異文化交流にほかならないことが、よく分かる内容になっている。たいへん勉強になった。
- 作者: 斎藤環,酒井順子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/05/01
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「おたく」や「負け犬」や「ヤンキー」などは、理解できるキーワードだが、「腐女子」は本書ではじめて知った。女性は二人というコンビの行動(連帯)が可能だが、「おたく」系の男性は孤独だ。いま、格差社会といわれているけれど、「カルチャー」に関しては、差異があるだけで格差がないこと。
斎藤:・・・格差も階級も歴然として存在するのだけれども、カルチャーに関してはない。・・・(中略)・・・金銭的な格差と、カルチャーの棲み分けとが、必ずしも一致していないのです。すると、ヤンキー性・おたく性といった趣味的な要素は、現実の経済格差を隠蔽したり超えたりする役割を果たしていると考えられます。ものすごくお金があるのに、生活形態が同じとか、負け犬も同じで、あれは紋切り型の格差論に対する、横方向からの楔だったと思うんですよ。「勝ち組」とか「負け組」というけれども、「勝ち組だけど負け犬」もいっぱいいるということですから。(p.171)
斎藤:女性の自然体というのは、どのような状態をさすのでしょうか。
酒井:自然体風になるという演出が今は盛んですが、本当の自然体は腐女子みたいな人たちでしょう。(p.197−198)
さすが、酒井さん、すっ、鋭い。おたく系男性は、虚構(ヴァーチャルな女子)に「萌え」ることができる。一方、女性の自然体は「腐女子」であるという。
本書の結論は、斎藤環によれば、以下のとおりとなる。
斎藤:今まで酒井さんと語りあってきて、僕はやっぱり、希望は性愛にしかないのではないか、という感想を新たにしました。・・・(中略)・・・どんな賢い人間でも性愛の局面においてはバカになる。・・・(中略)・・・性愛ゆえに人は頑張り、性愛ゆえにバカになる。ここに希望もあるんじゃないか。だから「おたく」から「腐女子」まで、「ヤンキー」から「負け犬」まで、さまざまな愛の形をいったん全部肯定しておく必要がある。その上であえて「バカになることを恐れるな」ということを、僕なりの結論にしておきたいと思います。(p.200)
酒井順子さんの近著『ひとくちの甘能』(角川書店)は、食べることのエロチシズムを書いている。「甘能」とは「官能」のことだ。
- 作者: 酒井順子
- 出版社/メーカー: 角川書店
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斎藤環氏には、「晶文社ワンダーランド」に連載していた「生き延びるためのラカン」が完結したので、本にしていただきたい。
■「おたく」のセクシュアリティを、理論的に解明した画期的な著書、斎藤環『戦闘美少女の精神分析』が文庫化された。解説は東浩紀。「おたくバブル」後の現在では古典的名著といえよう。(2006年5月16日補記)
- 作者: 斎藤環
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- 作者: 斎藤環
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- 作者: 酒井順子
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- 作者: 酒井順子
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