嫌われ松子の一生
『下妻物語』に、一種カルチャーショックを受けながらも、深田恭子と土屋アンナの異世界の女性同士が、奇妙な連帯感を持つに至る経緯を、カラフルでパワー溢れる映像で見せていたことに驚いたものだ。さて、監督・中島哲也は、これまでの映画文法を完全に無視したのだった。
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『嫌われ松子の一生』は、松子(中谷美紀)が死体で発見されたときが53歳、甥の笙(瑛太)が、彼女の生涯を追想して行くという構成になっている。松子がつき合う男たちは、作家志望の八女川(宮藤官九郎)、八女川の友人岡野(劇団ひとり)との不倫、ヒモ小野寺(武田真治)、床屋の島津(荒川良々)、中学教諭時代の教え子でやくざの龍(伊勢谷友介)と、いずれもダメ男ばかりだ。
およそ目的もなく、その場かぎりの人生を送りながらも、松子はその都度精一杯生きる。見方によればきわめて悲惨な人生なのだが、映画はポップで明るく、楽しく見せている。映画術というべきか。見事な作劇ぶり、傑作といっていいだろう。とりわけ、書き割りの背景が『オズの魔法使い』を想起させる、ミュージカル・シーンは秀逸である。
映画とは「嘘」を描きながら、「真実」を見せることで、優れて芸術的たり得るのである。
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