王になろうとした男


気になる映画作家の伝記および自伝が、相次いで出版された。手元に3冊の本がある。いずれも未読了。*1


①アントワーヌ・ド・ベック、セルジュ・トゥビアナ共著、稲松三千野訳『フランソワ・トリュフォー』(原書房,2006.3)

フランソワ・トリュフォー

フランソワ・トリュフォー

②シャーロット・チャンドラー著、古賀弥生訳『ビリー・ワイルダー 生涯と作品』(アルファベータ,2006.4)

ビリー・ワイルダー―生涯と作品 (叢書・20世紀の芸術と文学)

ビリー・ワイルダー―生涯と作品 (叢書・20世紀の芸術と文学)

ジョン・ヒューストン著、宮本高晴『王になろうとした男』(清流出版,2006.4)

王になろうとした男

王になろうとした男


映画のリメイクが臆面もなく繰り返される映画製作の貧困な状況は、過去の偉大な監督を憧憬する方向にむかう。フィルムを見るより、映画作家の自伝あるいは伝記を読む方が面白いという皮肉な現象。いずれも、作られた映画は古典として観るたびに、新鮮な驚きを発見させる優れた作家たち。



孤児院で育ち、母親から愛されなかったトリュフォーの生涯は、映画を通して理想の女性を求め続けたかのようにみえる。ヌーヴェル・ヴァーグの寵児であった彼は、その後商業映画に転じたと言われるが、トリュフォーの映画に本質的な変化はない。トリュフォー映画は、<愛>を希求するトリュフォーそのものだ。


ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話

ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話


ビリー・ワイルダーについては、キャメロン・クロウがインタビューした『ワイルダーならどうする?』があり、ウイーンで生まれ、ドイツで映画を撮り始め、ナチスから逃れてハリウッドへ亡命してきた。コメディが本領だが、シリアスなフィルムも撮った。ルビッチを師と仰ぐワイルダーの人生は、数冊の伝記本で語り尽くされているように見える。しかし、作品毎にエピソードがまとめられているという解説から、買い求めた。*2

ホワイトハンター ブラックハート [DVD]

ホワイトハンター ブラックハート [DVD]


中条省平の朝日書評『映画より面白い、波瀾万丈の自伝』を読み、クリント・イーストウッドが監督した『ホワイトハンター ブラックハート』(1990)で描かれたジョン・ヒューストン像の破天荒ぶりには、驚いたけれど、実在のヒューストンはイーストウッドをはるかに凌駕していた。『王になろうとした男』読むべし。*3


かつて蓮實重彦は「映画は死んだ」と述べたけれど、20世紀こそ「映画の世紀」であったことことが、21世紀以降の映画が証明している。大作化の方向は、内容の空疎化を招き、原作・脚本がしっかり作られている作品のリメイクがもっともリスクが少ないことになる。ステレオタイプ化が加速されるハリウッド映画。映画の黄金時代に活躍した映画監督の伝記は、映画の歴史を内包している。観ることと読むことが、相互補完的に映画を解読する方法になりつつある。


許されざる者 [DVD]

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■映画本の最高傑作は何たって『映画術』(晶文社)であろう。観ることの楽しさを映画以上に楽しませてくれる本で『映画術』以上のものはない。

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

*1:未読本を紹介するのは、ポリシーに反するのだが、昨日『考える人』で未読本を取り上げたので、もはやそんな原則にこだわらないことにした。

*2:ビリー・ワイルダーのマイベストは『情婦』(1957)。

*3:クリント・イーストウッドは、ジョン・ヒューストン許されざる者』(The Unforgiven, 1959) と同じタイトル『許されざる者』(Unforgiven, 1992)でアカデミー賞監督賞を受賞している。これは、ヒューストンへのオマージュだろうか。