ブロークバック・マウンテン


広大な山並みと美しい風景。抜けるような青空。カウボーイ達へのオマージュと挽歌とも言えるアン・リー監督『ブロークバックマウンテン』は、ひたすら美しい背景のなかで、楽園を体験した者が、世間から受ける仕打ちに耐えながら20年間の間、友情と愛情を保ち続ける二人の男、イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)の物語を中心に展開される。


ブロークバック・マウンテン (集英社文庫(海外))

ブロークバック・マウンテン (集英社文庫(海外))


楽園から世間に出た二人のうち、イニスは婚約者アルマ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚し、二人の子供(娘)を儲ける。表面上は、平凡な家庭を築き一見平和な生活を送ることになる。一方、ジャックは、相変わらずの生活でロデオで日銭を稼ぐ生活をおくっている。ロデオクイーンで金持ちの娘ラリーン(アン・ハサウェイ)と出会い結婚し、息子を儲ける。


イニスとジャックは、それぞれ家庭を持ち、傍目には平和な家庭生活を送っていた。二人が再会しなければ、それぞれがごく普通の人生を終えたであろう。ところが、同姓愛志向が強いジャックから、イニスに会いたいとの絵葉書が届く。裏側には、二人がカウボーイとして働いていたブロークバックマウンテンの山並みの写真が印刷されていた。


二人は、釣りに行くという名目で、何度かの逢瀬を重ねるが、そのため、イニスは離婚し、牧場で働き続けることになる。一方、ジャックは自分の欲望が抑えれずイニスの他にメキシコに遊んだり、牧場の持ち主と親しくなるが、もちろん、本心ではイニスのことが忘れられない。


映画冒頭のシーンで、広大な平原を捉えたキャメラは、ラストーシーンではトレイラーに住むイニスの部屋の小さな窓から見た光景に終わる。この対比は、夢のような楽園と現実の狭隘な世界に閉じこもることへの暗喩としてみえる。60年代から80年代の西部という保守的な環境が、同性愛という異質な存在を排除してきたことを、フィルムは如実に示している。「社会派恋愛映画」とでもよぶべき素晴らしいフィルムだ。