レスコフは義人の物語作家であるとベンヤミンは評価した

左利き 髪結いの芸術家 群像社のHPを見ていたら、ブーニン作品集4『アルセーニエフの人生』(2019)に刊行されていたことを知り、更に、レスコフの短編集新訳二冊『左利き』『髪結いの芸術家』が、「レスコフ作品集1,2」として2020年2月に発行済である…

彼岸と此岸をつなぐ古井由吉の<ことば>

神秘の人びと 古井由吉の『神秘の人びと』(岩波書店,1996)は、『仮往生伝試文』の西洋版であり、私は、中世西洋の修道院の人びとによる神秘体験を興味深く読んだ。マルティン・ブーバー編纂の説教集や、マイスター・エックハルトの説教集のドイツ語訳を、…

古井由吉氏の訃報は、近現代文学の終わりを告げる

古井由吉氏の訃報 新型コロナウイルスのパンデミック的感染拡大により、報道はこの武漢発生のウイルス一色となっている。この間、日常的な外出を控え、読書に集中していた。 古井由吉の訃報が小さく扱われていた。2月18日他界されたとのこと。 近現代文学の…

パラサイト 笑えないブラックユーモア

パラサイト 半地下の家族 パラサイト アカデミー賞、作品賞、監督賞(ポン・ジュノ)、脚本賞、国際映画賞の4部門を受賞した『パラサイト』を見た。ポン・ジュノ監督作品では、『殺人の追憶』『母なる証明』の2本を見ているが、その過去の作品と比較しても…

坪内祐三の死が気になって

追悼・坪内祐三 1月15日付け『朝日新聞(大阪版)』による坪内祐三氏の訃報に驚いた。享年61歳は若い。60代70代の著作も十分可能だったと思うと残念に思う。坪内氏の著作は、『ストリートワイズ』( 晶文社、1997)以後、『古くさいぞ私は』( 晶文社、2000…

本を読むことは他者の世界を知ること

本の贈りもの2019 今年2019年の書物の収穫を、とりあえず列挙(順不同)してみよう。 1.四方田犬彦『聖者のレッスン』(河出書房新社,2019)四方田犬彦著『聖者のレッスン 東京大学映画講義』は、宗教に関わる聖者が、映画の中でいかに描かれたを語る内容…

高山宏氏の超弩級・新刊書刊行を待ちながら・・・

トランスレーティッド 高山宏『トランスレーティッド』(青土社,2020)を入手した。単行本3冊分の厚さに驚く。高山氏は、翻訳を自ら最も好んだ翻訳と解題を、責務と考える学魔だったことが、この一冊に凝縮されているためよく分かる。 トランスレーティッド…

マッツ・ミケルセンの牧師が異彩を放っていた!

映画ベストテン2019 恒例の映画ベストテン。今年は87本をスクリーンで見た。ベストテン選出基準は『キネマ旬報2019年12月下旬号』に掲載されている映画(2019年1月1日~12月19日公開)から、あくまで自分の眼で見た結果であり、独断と偏見によるもの。 今年…

「器官なき身体」あるいはシュルレアリスムのこと

シュルレアリスム宣言 シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) 作者: アンドレブルトン,Andre Breton,巖谷國士 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1992/06/16 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 47回 この商品を含むブログ (53件) を見る シュルレア…

モーパッサンは面白い

わたしたちの心 ブヴァールとペキュシェ 作者: ギュスターヴフローベール,Gustave Flaubert,菅谷憲興 出版社/メーカー: 作品社 発売日: 2019/08/23 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る フロ-ベール『ブヴァールとペキュシェ』(作品社,2019)の…

太宰よりも安吾を好む

人間失格 蜷川実花監督『人間失格ー太宰治と3人の女』(2019)を見た。 映画の設定は、昭和21年から始まり23年で終わる。戦後の混乱期だが、映像は時代感覚を混乱させるほど美しく、花が絢爛豪華に咲き、画面を浮遊する。戦後の時代の雰囲気や衣装などは、汚…

ラース・フォン・トリアーは畏怖すべき芸術家である

ハウス・ジャック・ビルト ラース・フォン・トリアーの最新作『ハウス・ジャック・ビルト』(2018)を見る。見る者を不快にさせる映画だが、主人公は監督の分身であり、距離を置いて見ることで、芸術作品としてなぜこのようなサイコキラーの男を主人公にして…

『こころ』異聞は、女性の強さに着目している

『こころ』異聞 『こころ』異聞: 書かれなかった遺言 作者: 若松英輔 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/06/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 若松英輔著『『こころ』異聞』(岩波書店,2019)を、7月1日購入後、一気に継続して読んだ…

「死」をどのように受け入れるかを問う問題作

長いお別れ 『湯を沸かすほどの熱い愛』で、監督・中野量太の名前が強く印象つけられた。 映画「長いお別れ」オリジナル・サウンドトラック(特典なし) アーティスト: 渡邊崇 出版社/メーカー: SMM itaku (music) 発売日: 2019/05/29 メディア: CD この商品を…

ブラックユーモアとは決して言えない映画

ブラック・クランズマン スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』(2018)を観た。 ブラック・クランズマン 作者: ロンストールワース,丸屋九兵衛,鈴木沓子,玉川千絵子 出版社/メーカー: パルコ 発売日: 2019/02/28 メディア: 単行本 この商品を含…

シャーロット・ランプリングは老いの美しさを露出している

ともしび シャーロット・ランプリング主演『ともしび』(Hannah,2017)は、老境にさしかかった主婦が、遭遇する一種普遍的な問題を内包している。冒頭、画面の右側にアン(シャーロット・ランプリング)の顔のアップが映り、奇妙な声が続いて発せられる。何か…

「トルストイを読み給へ」と小林秀雄は答えた

アンナ・カレーニナ ずっと敬遠していた作家トルストイの最高傑作とも言える『アンナ・カレーニナ』(望月哲男訳,光文社古典新訳文庫)全4冊、8部を読了した。アンナとヴロンスキーが中心というか、むしろ狂言回し的に書かれていること、リョーヴィンこそが…

映画版『アンナ・カレーニナ』は、トルストイ作品解釈に一石を投じた

アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語 トルストイ原作『アンナ・カレーニナ』はこれまでに何度も映画化されている。 カレン・シャフナザーロフ監督の『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』(2017)は、日露戦争時代に時間を設定し、アンナ死後30年後…

『映画めんたいぴりり』は地方発の貴重なフィルムだ

映画めんたいぴりり テレビ西日本制作の『めんたいぴりり』が2013年テレビドラマとして放映され、好評につき『めんたいぴりり2』が2015年に放映された。第30回ATP賞・奨励賞、第51回ギャラクシー賞・奨励賞を受賞し、地方発の連続ドラマとしては異例の大き…

ツルゲーネフを19世紀ロシア文学の中で正当に評価しよう

父と子 ツルゲーネフ著、工藤精一郎訳『父と子』を時間がかかりながらも、読了した。ツルゲーネフの代表作と評価されているのも首肯できる。 父と子 (新潮文庫) 作者: И.С.ツルゲーネフ,工藤精一郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1998/05/04 メディア: 文…

「鈴木家の嘘」は、予想範囲内の出来だ。

野尻克己監督『鈴木家の嘘』(2018)を観る。 父・岸部一徳、母・原日出子、長男・加瀬亮、長女・木竜麻生の家族。引き籠りの長男が自殺したことで、ひきおこされる家族の混乱を、一種のユーモアを交えてに描かれる。しかしながら、冗長さは否めない。この主…

P.G. ウッドハウスを読む

年末から、2005~2007年にかけて発売されていた国書刊行会と文藝春秋版の文庫版・P.G. ウッドハウスのジーブスものを読む。文庫本は、2011年刊行。 気楽に読むことの楽しさ、それ以上でも以下でもない。 ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫) 作者: P.G…

2019年、平成最後の正月は

年賀状が届いた。高校時代の友人N君が、肝臓ガンと診断され、余命半年との記載あり。抗がん剤を使用せず、1年経過後、通常の生活をしている。もちろん.、本人の意思である。見事な生き方。己を顧みて・・・言葉がでない。

「ブログ」の引越し

はてなダイヤリーからの引越しブログです。 年末に慌ただしく開設しました。 旧「整腸亭日乗」を「新・整腸亭日乗」に変更します。 従来どおり、映画や読書を中心に覚書を記録しておくことが目的です。 (「はてなダイアリー」から「はてなブログ」への<イ…

未読了の図書2018

2018年に購入して、一部読みかけの図書、読み終わっていない図書・10点を記録しておきたい。 1.長谷川郁夫『編集者 漱石』(新潮社,2018.06)編集者 漱石 [ 長谷川 郁夫 ]ジャンル: 本・雑誌・コミック > 人文・地歴・哲学・社会 > 文学 > その他ショップ:…

19世紀ロシア文学

19世紀ロシア文学とは、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフ、ゴーゴリなどの作家の作品群である。革命以前の作家達だ。革命に遭遇し亡命したブーニンは20世紀の作家として当該範疇には属しない。また革命に翻弄されたゴーリキも含まないものとする。1…

映画ベストテン2018

今年、映画館のスクリーンで観た映画は113本。久々の100本超えだった。 例によって『キネマ旬報12月下旬号』に依拠して、外国映画、日本映画それぞれのベストテンを以下に記す。 【外国映画】1.スリー・ビルボード(マーティン・マクドナー〉 2.ボヘミアン…

寝ても覚めても

濱口竜介の商業映画第一作『寝ても覚めても』(2018)が、雑誌『ユリイカ』で特集されるなど、今の若手監督では最も注目すべき作家だろう。2015年に公開された『ハッピーアワー』は、素人俳優がロカルノ映画祭で4人が主演女優賞を獲得したことで話題となって…

胃弱・癇癪・夏目漱石

漱石研究には、作家論、作品論等、いわば本流の作家研究があり、一方、漱石の私生活や恋愛などに主体的アプローチする批評がある。 胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯 (講談社選書メチエ)作者: 山崎光夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/10…

今夜はひとりぼっちかい?日本文学盛衰史戦後文学篇

今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇作者: 高橋源一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2018/08/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る日本文学盛衰史 (講談社文庫)作者: 高橋源一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/06/15…