ブラックユーモアとは決して言えない映画
ブラック・クランズマン
スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』(2018)を観た。
『風と共に去りぬ』でヴィヴィアン・リーが、医者を探してアトランタの町の広場に横たわる南軍兵士の間を歩き廻る俯瞰ショットを、映画の冒頭に引用する。
この『風と共に去りぬ』の提示は、舞台が南部であるということだろうか。映画『ブラック・クランズマン』の時代は1970年代前半であるようだ。
黒人警察官ロン(ジョン・デビッド・ワシントン)が、電話の声で白人になりきりKKKに入会する。但し、送りこむ人物は白人でユダヤ人のアダム・ドライバーが演じるフリップ。この設定が面白いし、警察内ではユーモアが効いているが、KKK内部に潜入したフリップにとっては、冗談では済まされない。KKKは、黒人のみなず、ユダヤ人をも敵としていたことを、スパイク・リーは、映画を通して伝えようとしている。これは、ユダヤ人が黒人に次いで迫害の対象とされていたことを示している。
KKK内部で、グリフィスの『国民の創生』上映があり、KKKが活躍するシーンには拍手喝采「アメリカファースト」と叫ぶ。一方、黒人の集会で老人が、過去に知的障害の黒人少年が、犯人にされ強姦の罪で処刑された事実を述べるシーンが、カットバックで示される。KKKと黒人グループ会合が、交互にカットバックされ、緊張感が増幅される。
そもそも、映画手法のカットバックとは、グリフィスが発明したと言われているから、スパイク・リーは、反=グリフィス映画として撮ったのだろう。
ラストはロンと恋人パトリス(ローラ・ハリアー)は、ノックの音に拳銃を身構えて、廊下に出る。すると、場所は2016年のシャーロッツヴィルに移動しており、ニュース映像が流される。
現在の大統領トランプをニュース映像的に、シャーロッツヴィル事件の映像の後、KKKを支持するかのような発言を取り込んでいる。映画史とアメリカ黒人の差別の歴史が重層的に描かれており、幾重にも黒人差別問題が未解決であり、『国民の創生』上映後にKKK会員が増加したごとく、トランプ出現により、白人至上主義が復権されていることを怒りを持って告発している。
『ブラック・クランズマン』は、単純に『グリーンブック』のような絶賛の判断を下すことが困難な、ある種危険なフィルムではあるが、少なくともKKKへの挑戦であり、トランプ的存在の否定であることに間違いない。
ユリイカ 2019年5月号 特集=スパイク・リー ―『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』『ブラック・クランズマン』・・・ブラックムービーの新しい目覚め―
- 作者: スパイク・リー,SKY-HI,綾戸智恵,荒このみ,吉岡正晴,ダースレイダー
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スパイク・リーは、現アメリカ大統領の名前を口にしたくないと、存在自体を否定していることは強調しておくべきだろう。
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