パラサイト 笑えないブラックユーモア

パラサイト 半地下の家族

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パラサイト


アカデミー賞、作品賞、監督賞(ポン・ジュノ)、脚本賞、国際映画賞の4部門を受賞した『パラサイト』を見た。ポン・ジュノ監督作品では、『殺人の追憶』『母なる証明』の2本を見ているが、その過去の作品と比較しても、特に『パラサイト』が優れているとは思えなかった。

 

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 拙ブログでは、2009年ベストテン1位に、『母なる証明』をあげ、2004年は『殺人の記憶』を4位にしている。それだけ、小生の中では、ポン・ジュノを高く評価していた。

 

母なる証明(字幕版)

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今回の『パラサイト』は、半地下に暮らす4人家族が、長男チェ・ウシクの家庭教師に続き、美術教師として妹パク・ソダムを送り込み、社長の運転手の替わりに、父親ソン・ガンホが続き、最後に家政婦として母親キム・チュンスクが寄生することになる。

上流階級の社長イ・ソングュン、夫人チョ・ヨジョン、長女チョン・ジソ、長男の描き方もステレオタイプで、いかにもありそうな設定であり、取り立てて発想が優れているとは思えない。半地下に住む家族は、個性的に描かれる。

父親役ソン・ガンホは、韓国映画では著名な俳優で、地下室特有の匂いを放つ。運転手をしながらも、IT社長の行動を把握し寄生して行く。

前半のここまでは、半地下家族によるブルジョワ家族へのパサイト=寄生の様子が、実に自然に行われている。このあたりまでは、実に面白い。


ところが、ブルジョワ家族がキャンプに出たあと、半地下家族は乱痴気騒ぎに興じていたところへ、解雇された家政婦の訪問により、実は地下に家政婦イ・ジョンウンの夫が住み着き、4年になるという衝撃の事実と、家政婦の夫の狂暴さが、コメディ調から、バイオレンスに転じる。

富豪家族がキャンプから引き揚げて、早々に帰宅するのは、豪雨のためで、半地下家族の自宅は浸水被害を受け、体育館に避難する。一方、富豪の家は高台にあり無事であるのは当然のことだった。

 

その後、富豪社長邸では、パーティが開かれる。インディアンゲームでは、妹の美術教師役のパク・ソダムがケーキを持って現れると、長男でこどものダソンがインディアンに扮した父イ・ソンギョンと、半地下の父ソン・ガンホに襲われて、という設定が地下室の男の出現により、修羅場へと変貌する。
まず、半地下の妹パク・ソダムが刺され、母キム・チュンスクが、狂気の男を刺し返す。更にソン・ガンホは、富豪社長を刺し殺すという残酷な結末に至るが、その後ソン・ガンホは地下室に逃亡し、行方不明を装う。

このあたり、半地下と地下という下層階級同士の闘争を見せることで、単純に格差を浮かび上がらせるより、階層差別が、韓国内の深刻な現実であることを露呈する。

地下の男によって頭に衝撃を受けた長男チェ・ウシクは、新しく住む家族を山中から眺め、父親がモールス信号で、家族に伝言していることを知る。そしてチェ・ウシクは、金をためその家屋を買い取り、母キム・チュンスクとともに、地下のソン・ガンホを助け、豪邸に住む・・・それは依然として半地下に住み続けるチェ・ウシクの夢にほかならなかった。

 

いわば格差社会の反撃の映画ともなっている。その反撃は、しかしながら、結局中途半端に終わることになる。

ブラックユーモアというより、階級差が生み出す悲喜劇として、笑い飛はすことができないアイロニカルなフィルムに仕上がっている。アカデミー賞関係者が、韓国の格差の実態をどこまで理解しているかは別として、社会に潜在する格差と闘争をブラックユーモアとして捉えた評価が一般だと思うと、一種複雑な思いが錯綜する。

 

格差問題は韓国だけではない。グローバルに拡大する格差は、もちろん日本にもアメリカにも存在する。日本映画が、国際的評価を受けるためには、高校生の恋愛ものが多く製作される現場を支配する雰囲気があるのかも知れないが、製作する映画の傾向があまりにもガラパゴス状態に陥っていることからの脱出が望まれる。

 

是枝裕和監督『万引き家族』が国際的評価を得たのも、社会からこぼれ落ちる人達への視点がしっかりして揺るぎがないからと考える。

 

日本映画が、かつて小津・溝口・黒澤など、固有の世界観を持つ作家がいたことを、想起しなければばならない時期にきている。

 

冒頭に戻れば、『パラサイト』はポン・ジュノ作品の最高傑作とは言えない。にもをかかわらず、カンヌ・グランプリをはじめ、アメリカのアカデミー賞制覇は、多様性を尊重しようという傾向の上に乗っかった一種の奇蹟のような気がするのだが・・・さて、10年後の時を経たのち、世界の様相と映画界はどのように変貌しているのだろうか。

 

ポン・ジュノ監督作品

 

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