2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

殯(もがり)の森

カンヌ映画祭でパルムドールに次ぐグランプリを受賞した、河瀬直美『殯の森』(2007)を、NHKハイビジョン放映にて観る。奈良の山間部、グル−プホームでは、認知症のしげき(うだしげき)が、亡妻の33回忌になっても今だに妻のことを忘れられずにいる。そ…

市川崑物語

岩井俊二『市川崑物語』(2006)を観る。いわゆるドキュメンタリーではなく、岩井俊二から視た市川崑と和田夏十(なっと)に関する私的なメモという印象だ。黒い画面に、白い文字で言葉が映される。まず冒頭に、三島由紀夫のことば「日本映画の一観客として…

小林秀雄とウィトゲンシュタイン

中村昇『小林秀雄とウィトゲンシュタイン』(春風社、2007.3)読了。本書は徹底して「言葉」について書かれている。小林秀雄のベルクソン論『感想』で語られるあの「おっかさんという蛍」を「童話」として書かざるをえなかったことについて。本来言語化しえ…

ルナシー

チェコアニメの巨匠にしてシュールレアリスト、ヤン・シュヴァンクマイエル『ルナシー』(2005)を観る。短編のいくつかと長編『ファウスト』(1994)『悦楽共犯者』(1996)を観ている。しかし、『ルナシー』のインパクトは強烈だった。 ヤン・シュヴァンク…

記号と事件

ドゥルーズ『シネマ2』(法政大学出版局、2006)が翻訳出版されたのが昨年11月だった。そして、いよいよ、『シネマ1』がこの6月に刊行される。それに先立ち、ドゥルーズ『記号と事件』(河出文庫、2007)が刊行された。1992年の単行本刊行から今回の文庫化…

パッチギ!LOVE&PEACE

井筒和幸の傑作の続編『パッチギ!LOVE&PEACE』(シネカノン,2007)を観る。前作は1968年の京都が舞台であったが、それから6年経過した1974年の枝川。アンソンとキョンジャは、井坂俊哉と中村ゆりに交替している。オモニはキムラ緑子が前回に引き続き出演…

かつて授業は「体験」であった

松浦寿輝の「かつて授業は「体験」であった」(『UP』2007年5月)を読む。松浦寿輝氏については、初期の映画論『映画n-1 』や『映画1+1 』『ゴダール』などを読んでいるけれど、芥川賞受賞作『花腐し』以降の小説はまったく読む気にならなかった。 映画 1+…

カーライルの家

安岡章太郎『カーライルの家』(講談社、2006)読了。「第三の新人」という呼称自体が、第一次戦後派、第二次戦後派、に続く世代であるため名づけられたわけだが、「第三の新人」の作家の皆さんは既に80歳を超えている。現在、庄野潤三氏と安岡章太郎氏ある…

フューチャリスト宣言

梅田望夫と茂木健一郎の共著『フューチャリスト宣言』(ちくま新書、2007.5)読了。シリコンバレー在住のウェブ進化論者と「クオリア」研究者の対談となれば、期待度が高い。読後感としては、ネット社会をもうひとつの世界=地球とみる発想、組織に属すことが…

楽日

台湾の映画監督ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の『楽日』(2003)『西瓜』(2005)を観る。『愛情萬歳』(1994)以来の出会いとなる。台湾映画の監督といえば、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)や、エドワード・ヤンが直ちに想起される。香港のウォン・カーウァ…

自壊する帝国

いま一番話題の人物といえば、休職外務事務官の肩書きで、旺盛な執筆を続ける佐藤優であろう。何冊かある本のなかから『自壊する帝国』(新潮社、2006)を読む。同志社大学神学部から大学院神学研究科卒業という異色のノンキャリア外交官。研究テーマは「組…

『バベル』追記

「朝日新聞」2007年5月8日(火)の朝刊に、沢木耕太郎が『バベル』の映画評を掲載している。 なぜ菊地凛子だったのか。それは彼女の演じる女子高生が、この映画の登場人物の中でほとんど唯一「内面」を持つ人物だったからである。彼女だけが、発することので…

バベル

菊地凛子さんがアカデミー賞助演女優賞候補として話題になった映画『バベル』を観る。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督。名前を口にするだけで舌を噛みそうな名前。一度憶えると忘れることはない。 メディア: この商品を含むブログを見る モロッ…

太宰と井伏

加藤典洋『太宰と井伏 ふたつの戦後』(講談社、2007)は、『敗戦後論』以後の、もうひとつの敗戦後論であり、『論座』2007年6月号に掲載された「戦後から遠く離れて」はその政治版である。なぜ太宰は、『人間失格』のあと、心中自殺をしたのか。 太宰と井伏…

Google Scholar

国立情報学研究所(NII)が、学術論文データベースサービス「CiNii(サイニイ)」で提供している日本の主要学術雑誌の約300万件の論文データが「Google Scholar」で検索可能となった。「CiNii(サイニイ)」は、論文の論題,著者名,抄録等を提供しており、…

人間自身

池田晶子さんの遺作『人間自身 考えることに終わりなく』(新潮社、2007)は、池田さんの死を知るゆえ、感慨深いものがある。拾い読みをしながら思うに、池田氏は、本質的・根源的に「あること(存在)」について、考え続けた稀有の哲人であった。「生きてい…