フューチャリスト宣言
梅田望夫と茂木健一郎の共著『フューチャリスト宣言』(ちくま新書、2007.5)読了。シリコンバレー在住のウェブ進化論者と「クオリア」研究者の対談となれば、期待度が高い。読後感としては、ネット社会をもうひとつの世界=地球とみる発想、組織に属すことが必要ではない世界、ブログの可能性など、グーグルが目指しつつある方向と共鳴しながら、未来に希望を託す能動的楽観主義者からの宣言書になっている。
- 作者: 梅田望夫,茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05/08
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「○○宣言」は、歴史上著名なもので、「共産党宣言」「シュールレアリスム宣言」などを思い出させる。しかし、現在進行しつつあるインターネットの世界を、人類が言語を獲得したとき以来の革命に喩える茂木氏の考えや、ブログによる情報発信の意義を未来へのメッセージとする梅田氏に共有する意識は、未来志向性にある。
組織やシステム、とりわけ大学に象徴される知の在り方は終わっているという指摘は、肯定できる。
茂木:大学というシステムが終わっていることは体感でわかるんですよ。つまりクラスルームに行って講義するまではいいのですが、その後宿題を出して、レポートや試験の採点をして成績をつけるという一連のプロセスがまったくナンセンス。学生のときは意味があると思っていたけれど・・・。
梅田:僕は学生のころ、最後までいい成績を取ろうと考えていたんだけど、あるとき、これには何の意味があるのだろうと思い始めた。(p.100)
茂木氏は論文をアーカイヴに置くべきことを主張しているし、「これからは、個人の信用はネットで保証すれば良い。誰が最初にそれに気づくか。それに気づいた人が輝く。」という。所属する組織や肩書きで個人を評価するのではなく、ネット上のプレゼンスが個人を支えるインフラであると。この考え方は基本的に賛同したい。
- 作者: 茂木健一郎
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ネット社会は後戻りできない、とすればどのような世界を構築すればいいのか。梅田望夫は過去の思想や現象のアナロジーで語れないと極論しているが、そこは過信というべきだろう。茂木健一郎は、「脳とクオリア」を研究するために、ネットとリアルの世界をバランスよく往復している。しかし、梅田望夫は、ネット社会でほぼ100%に近い活動をしている。知的活動としてはネットの世界が優位であることは分かるが、現実の存在は時間と空間に規定されたリアル世界に居るわけだから、限定された世界としてネット社会を捉え、ウェブがオールマイティではないとことの自覚が必要だろう。
- 作者: 梅田望夫
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敢えて梅田氏には、哲学=思想の歴史的遺産を侮るなかれ、*1と一言申し上げたい。