清水宏三本目『簪(かんざし)』(1941)も、舞台は温泉場。団体客の到着から始まり、按摩を呼ぶというシチュエーションは、『按摩と女』の設定を引き継ぐような雰囲気であり、気難しい教授・斎藤達雄、お人好しな日守新一とその妻、戦傷帰還兵・笠智衆など、冒頭で主な湯治客が紹介される。


簪(かんざし) [DVD]

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団体客にこと細かく文句をつける斎藤達雄のユーモア溢れる存在感は秀逸であり、おどおどした日守新一と、つねに情緒的な笠智衆三者が対照的に描かれる。


温泉で湯につかっているとき、簪で足を怪我した笠智衆のもとに、その簪の落とし主が東京から謝罪にやってくる。もちろん美人女性・田中絹代。客のなかに子供二人がいて笠智衆のリハビリに協力する。田中絹代は、笠智衆のリハビリに付き合ううちに、二人の間に微妙な雰囲気ができてくる。やがて、教授が去り、日守新一も帰京し、ついには笠智衆が東京で温泉仲間と会合を持ったという知らせのハガキが田中絹代のもとに届けられる。


彼女の位置は、高峰三枝子と同じお妾さんであり、その生活から脱出することを願っているようだ。ラストシーンは、雨模様のなか傘をさして、笠智衆のリハビリにつきあった場所を歩く田中絹代の姿を捉えフェイド・アウトして「終」の文字がでる。


清水宏の淡々とした、リアリズム描写。『簪』には、小津映画の常連、笠智衆斎藤達雄、坂本武(旅館の主人)たちが出演しているため、どうしても小津映画を想起してしまう。実際、室内で、教授と老人が相似形に並び、正面に向かって台詞をいうシーンは小津と似ている。しかし、全編ロケーション、自然描写や移動撮影など、明らかに撮影スタイルは異なっていることが際立つ。


小原庄助さん [DVD] COS-049

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清水宏作品はこれまで、『蜂の巣の子供たち』(1948)『小原庄助さん』(1949)の二本しか観ていなかった。このDVD−BOXの三本を観て、改めて小津・溝口・成瀬とは異なる資質を持つ日本を代表する監督であることを認識した。とりわけ『小原庄助さん』が、清水宏自身と重なる傑作であったことが確認できた。


清水宏監督作品第二集 子どもの四季』発売が楽しみになってきた。


新東宝傑作コレクション 小原庄助さん [DVD]

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