按摩と女


同じDVD−BOXに収録されている『按摩と女』(1938)は、盲目の按摩・徳市(徳大寺伸)と福市(日守新一)が二人で峠の山道を歩きながら、向こうからくる子供の人数を当てるゲームに興じたり、ハイキングの学生たちより早く歩くことに喜びを見出しながら、商売目的の温泉地にだどり着くシーンから始まる。


按摩と女 [DVD]

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温泉に着く直前乗合馬車に、「東京からきた女」(高峰三枝子)と中年男(佐分利信)と子供の二人づれなどを乗せている。温泉に着くや、徳市たちは旅館に按摩として呼び出しがかかる。徳市は、「東京からきた女」の肩をもむことになる。謎めいた女性・高峰三枝子は憂いを含んだ表情をしているが、見えないはずの徳市に、彼女のただならぬ気配を察知する。


子供を媒介にして、徳市=徳大寺伸は、高峰三枝子佐分利信とかかわって行くが、旅館に盗難がおき、その疑いを高峰三枝子に重ねてしまう徳市。しかし、東京からきた女には別の事情があった。妾生活から逃亡してきていたのだった。徳大寺伸と、高峰三枝子佐分利信の一種三角関係ととれなくもない設定は、佐分利信の帰京であっけなく、消滅する。


温泉場の客たち、按摩の人々の生活ぶりをいかにも風情ありげに山間の風景のなかで美しい画面に収まっている。とりたてて主題があるわけでもなく、温泉場における仮生活の時間の流れがすべてを過去に持ち去って行く。雨が降る温泉場の道路から佐分利信が去り、高峰三枝子も馬車の客となる。追いかける徳市には乗合馬車の後姿しかみえない。


なお、この『按摩と女』は石井克人監督により、『山のあなた〜徳市の恋〜*1としてリメイクされ、近々公開される予定になっている。


『山のあなた 徳市の恋』 ガイドブック (ぴあMOOK)

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*1:徳市役にSMAPの草ナギ剛、福市に加瀬亮、「東京からきた女」にマイコ、佐分利信の役を堤真一という期待できるキャスティングで、5月下旬東宝系にて公開。