本の本


斎藤美奈子さんの書評集『本の本』(筑摩書房, 2008.3)を入手。730頁プラス8頁の索引(書名、著者)が付いている。目次から主題別に見て行くより、索引から目的の本の書評を読むという読み方ができるところが良い。


本の本―書評集1994‐2007

本の本―書評集1994‐2007


まず気になる村上春樹の作品についてみると、『海辺のカフカ』『アフターダーク』とも、辛口批評に徹している。


海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)


著者名索引からみると、上野千鶴子9回、笙野頼子8回、伊藤比呂美6回、江原由美子5回、小倉千加子5回、金井美恵子5回、松浦理恵子5回、と女性が多く、男性は高橋源一郎のみ5回取り上げられている。全体としてフェミニズム志向があるけれど、批評的な距離を置いているから、斎藤氏の書評は小気味よい。


小説論 読まれなくなった小説のために (朝日文庫 か 30-3)

小説論 読まれなくなった小説のために (朝日文庫 か 30-3)


4月29日(火)から朝日「文芸時評」の担当が加藤典洋氏から斎藤美奈子氏に変わった。第1回は、いわゆる文芸誌をとりあげていて面白い分析をしている。文学村は二つに分かれて棲み分ける形で続いてきている。「群像」「新潮」等の文芸誌、芥川賞の対象となる純文学系。いまひとつは小説誌、「小説現代」「オール読物」などで、直木賞系の雑誌。


読者が不在でありながら続いているのは、作品の発表の場であり生産工場でもあるからで、掲載あるいは連載後、単行本として発売されるわけだ。


このような状況のなかで新たに参入してきた雑誌を「第3の勢力」として紹介している。「yom yom」第6号、「monkey business」(創刊)「真夜中」(創刊)を取り上げ、物語の復権を目指しているという。文芸誌の創刊は、「ポストモダン」時代の創刊誌の行方からみれば、前途多難であることが予測されるが、若者の読書について斎藤氏は次のように指摘する。


かつての教養主義が完全に崩壊した現在も、若者の読書離れは起こっていない。『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー』の爆発的ヒット、あるいはケータイ小説の流行は、若い世代が広い意味での物語を求めていることを示していよう。


世間でいわれる「若者の活字離れ」とは違う見解だ。たしかに深い物語ではないが、軽い物語を求める読者の多さ、とりわけケータイ小説の流行は、「活字離れ」とは逆の方向だ。


斎藤氏は、「文芸時評」について次のように結ぶ。

新聞の文芸時評は、純文学工場の専属検査官として、個々の作品に目を光らせ、ひたすら出来をチェックしてきた。/その役割は役割として、文学は工場の外にもある。がんばれ、新雑誌。負けるな、工場。


いかにも、斎藤氏らしい第1回「文芸時評」になっている。


文芸時評」のスタイルは、戦後平野謙が確立した基準から、様々なパターンによる読むための指標を、提供してきた。専門書評家として、おそらく唯一商業的に成功している斎藤美奈子氏の存在は貴重だ。どのような切り口で、各種の文芸誌を斬って行くのか、「文芸時評」の新たなスタイルを構築して欲しいと願う。


文章読本さん江

文章読本さん江