モンスター

モンスター プレミアム・エディション [DVD]

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シャーリーズ・セロンが、2003年度アカデミー賞の最優秀女優賞を獲得した『モンスター』について、一体、何を語ることができるのだろうか。女性監督パティ・ジェンキンスによる初長編作品。

デニーロ・アプローチと称される体重を増減させる方法と、特殊メイクによって、シャーリーズ・セロンの演技が、金髪の美形であるが故の、賞賛に集約されるだろう映画評は、ほとんど意味を持たない。


実在の連続殺人者アイリーン・ウォーノスを描くこと自体が、カポーティの『冷血』や、アーサー・ペン俺たちに明日はない』の延長線上に位置するフィルムになるであろうことも予測がつく。この映画は、実話に基づく話であることから、観る前にある程度内容が分かってしまう類のフィルムであり、そのことが、逆にマイナスに働くことも容易に想像できることだ。


スクリーンを前にしても、期待過剰になることはなかった。自然に観ようと自らに言い聞かせなれば、おそらく観ることもなかったであろうフィルム。


にもかかわらず、この映画の迫真に満ちた緊迫感と、事実がフィクションを凌駕することを証明しているフィルムであることを、これほど観る者に鋭く突きつけてくることは稀有な体験となる。


同性愛的志向が強いクリスティーナ・リッチ演じるセルビーとの出会いがなければ、愛に気づくことなく、生涯を終えていたかも知れないアイリーン。アイリーンを、モンスターに変貌させたのは、一言にしていえば、家庭環境ということになる。肉親の暴力に耐えながら、13歳で娼婦になり、ホームレスとなったアイリーンが生きる道とは、彼女を陵辱した男たちに復讐すること以外にはありえない。なるほど、セルビーへの愛から、手早く金を得るために犯した殺人は、許されるというレベルではない。もちろん、殺人には、国家的な正当性も持つ殺人(戦争)と、個人が他者を個別に殺害する殺人があり、前者は法律によって裁かれることはない。後者のみが、法廷で裁かれるのだ。


『モンスター』は、過酷な環境に置かれた少女が生きる道として選択した娼婦という職業を、アメリカ社会の高度資本主義的な経済的差別が助長していると指摘することはたやすいことをも見透したフィルムであり、女性の自立が環境という構造から逸脱することの困難さを、リアルに描いた作品といっても真の解釈からはほど遠い。


人はどのようにでも生きることができるというのは錯覚ではないのか。環境という構造を超えることの困難さは、何もアイリーンのみではない。今日の日本の殺伐とした社会的状況にも言えることであろう。宿命ということばでまとめてしまえるほど、ことは、単純ではない。


『モンスター』に触発されて、およそ映画的言説から限りなく遠い地点で、凡庸なことばを綴っていることくらいは自覚できる。しかし、そのような凡庸なことばを拒否しているのが、ほかならぬ『モンスター』という映画ではないのか。


観ることが、際限なくことばを連ねることになるほど、この映画のインパクトは大きい。ブルース・ダーンが演じるベトナム帰還兵のトーマスが、アイリーンの唯一の理解者であったことに、アイリーン自身が気づいていないことの不幸は、強調しておかねばなるまい。戦争という国家的殺人に加担したトーマスこそが、人を殺すことの本質を見抜いていたのだ。



『モンスター』
http://www.gaga.ne.jp/monster/


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