サーク・オン・サーク


アメリカ映画を代表する映画監督は、ジョン・フォードアルフレッド・ヒッチコック、ハワード・ホ−クスということになる。フォードを別格とすれば、ヒッチコックもホークスも、ヌーヴェル・ヴァーグによって発見された職人監督である。サスペンスのヒッチコック、あらゆるジャンルをカヴァーしたホークスとすれば、「メロドラマのサーク」が第四の作家といえよう。日本映画で例えるとすれば、小津安二郎溝口健二黒澤明の三大巨匠に続くのが成瀬巳喜男の位置であり、アメリカ映画のダグラス・サークが、いわば成瀬巳喜男の位置につくのではないか、というのはあくまで私的な意見。


サーク・オン・サーク (INFAS BOOKS―STUDIO VOICE‐boid Library (Vol.1))

サーク・オン・サーク (INFAS BOOKS―STUDIO VOICE‐boid Library (Vol.1))


ゴダールダグラス・サークについて『カイエ』誌に掲載した2本の批評から引用してみよう。引用文は『ゴダール全評論・全発言Ⅰ』(筑摩書房、1998)から。

風と共に散る』と『間奏曲』は、このメロドラマの度外れなまでの信奉者が、自分の主題から沈殿物をとり除き、その上澄みである抒情的な骨組みだけを生かすすべもまた心得ているということを示していた。(p.295「優雅にして的確な」)


ゴダール全評論・全発言〈1〉1950‐1967 (リュミエール叢書)

ゴダール全評論・全発言〈1〉1950‐1967 (リュミエール叢書)


翼に賭ける命』のダグラス・サークを次のように賛美する。

なりよりもまず、演出の驚くべき鮮やかさ、線を移動させながら線をつくり出すあの運動がいっぱいつまった、優雅でしかも的確な画面構成を賛美したい。(p.296「優雅にして的確な」)


愛する時と死する時』に対しても、サークの映画を美しいと絶賛している。

彼のこの映画が美しいのは、われわれは彼の愛の映像がくりひろげられるのを見ながら戦争のことを考え、また逆に、戦争の映像がくりひろげられるのを見ながら愛のことを考えるからだ。・・・(中略)・・・ダグラス・サークは言葉の古典的な意味での礼儀正しい映画作家である。彼の品のある天真爛漫さが、彼の力をなしているのである。技術的観点から言って、私はこの点でもまた、この映画を美しいと思う。(p.408「涙と速さ」)


愛する時と死する時』のタイトルは、レマルクの小説『生きる時と死する時』の「生」を「愛」に変えたわけで、愛する二人の「愛と廃墟の関係を描くこと」(p.230)が、このフィルムの意図であったという。ダグラス・サークは、自らの作品について次のように述べる。

お気に入りリストのようなものを挙げろと言われれば、・・・まずドイツ時代の後期の映画。*1それから『パリのスキャンダル』『誘拐魔』『町につれてって』『自由の旗風』『風と共に散る』、『翼に賭ける命』。たぶん、結局のところ『翼に賭ける命』がわたしのベスト・フィルムでしょう。(p.242−243)


ダグラス・サークの映画を観る環境をつくるべく、以上の一文を草してみた。願わくばダグラス・サークがDVD化されることを祈って。



■追記(2007年3月18日)


ダグラス・サークは、『サーク・オン・サーク』の中で、カール・ドライヤーの『ガートルード』や『怒りの日』の素晴らしさに触れている。「カットを先送りすること」が物語を強調する手段になることをドライヤーから学んだと言っている。真に傑出した作家は、優れた先人に学んでいるのだ。

怒りの日 [DVD]

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絶版本のための「復刊ドットコム」があるように、「復刊・映画ドットコム」のようなものが、出来ないかな。ダグラス・サークのように埋もれてしまった作家を復権するために。これって<新しいビジネス>になると思うのだが。。。

ガートルード [DVD]

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*1:『第九交響楽』『世界の涯てに』『南の誘惑』のこと。