僕の彼女を紹介します


クァク・ジェヨンの新作『僕の彼女を紹介します』(2004)は、映画とは徹底して荒唐無稽なものであることが許されることを、証明しているフィルムになっている。


僕の彼女を紹介します 通常版 [DVD]

僕の彼女を紹介します 通常版 [DVD]


冒頭、ビルの屋上から落下するチョン・ジヒョンに、「僕の彼女を紹介します」というチャン・ヒョクのナレーションがかぶさる回想スタイルで始まる。僕から見た彼女とは強気の警官で、誤認逮捕が二人の出会いのスタートであった。


軽快なテンポで進捗する二人の関係は、コメディそのもので、映画史的記憶をおさえた多くの引用とパロディには、思わず苦笑させられる。手錠をつないだまま一夜を過ごすのはヒッチコックの『三十九夜』(1935)のロバート・ドーナットとマデリーン・キャロルを想起させる。手錠でつながった不自由なままで、二人は洗面所前で交互に同じ動作を反復することが、関係の親密化をあらわしているように。


雨が降るしきる道路で、雨や水溜りを気にせず踊るように歓喜するシーンは、申すまでもなく、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』(1952)を連想させる。映画の中のおとぎ話はこの映画のオリジナルだが、『白雪姫』や『ロミオとジュリエット』から発想されていることは確かだ。


二人で出かける夏休みのドライヴ。キスを拒否するチョン・ジヒョンは、皮肉にも、車の事故で溺れたチャン・ヒョクを救うために人口呼吸でキスを交わすことになる。ラブシーンを直接的に描いていないのも、このフィルムの良いところであり、二人が、草原の丘で風を受けながら、チャン・ヒョクは「僕がいないときに吹く風は僕だ」とその後の展開を暗示させる光景が、一種ラブシーンの代替になっている。


死んだ恋人が女性を守る『ゴースト ニューヨークの幻』の雰囲気や、『シティ・オブ・エンジェル』の天使ニコラス・ケイジが、女医メグ・ライアンに気づかれないように本を置くシーンから、詩集が唐突にチョン・ジヒョンの部屋に置かれているシーンへと、映画的記憶がつながる。


このように、映画的記憶に満ちた『僕の彼女を紹介します』が、極端に荒唐無稽さを突出させるのが、冒頭の落下シーンにつながるチョン・ジヒョンの投身自殺のシークエンスであろう。黄色いバルーンに救われた彼女は、その後、強い警官として現場で大奮闘、そのあまりのかっこよさは、アクション映画そのものであり、虚構だからこそ、彼女の強さと、恋人への思慕のため自殺を考える弱さとの落差に、フィルムとしての純愛度が上がるといえるのかも知れない。


Special Appearansesとしてクァク・ジェヨン監督作品から二人が出演している。ラストシーンは、もちろん、そのうちの一人が「僕と魂の似た人」として新たな幸福が待っていることを余韻として残す。何度もこれで終わり?というシーンが続き、やっと映画はエンディングを迎える。


荒唐無稽さを、ためらうことなく荒唐無稽さとして描いてしまう韓国映画の勢いを感じさせる点で、また、韓国映画のコメディ・アクション・純愛映画の要素が盛りだくさん詰まっていることで、『僕の彼女を紹介します』は、2004年韓流ブームを締めくくるにふさわしいフィルムになっている。


僕の彼女を紹介します
http://bokukano.warnerbros.jp/


クァク・ジェヨン作品

ラブストーリー [DVD]

ラブストーリー [DVD]