名短篇


名短篇―新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念 (SHINCHOムック)

名短篇―新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念 (SHINCHOムック)


荒川洋治編集長による『名短篇』(新潮別冊)は、文芸誌『新潮』創刊100周年記念で、荒川氏が一年間をかけて本誌に掲載された中から短編38編を厳選した。


森鴎外の「身上話」(1910)から、町田康一言主の神」(2004)まで、また、『新潮』に掲載された長編40編についての解説があり、近代日本文学史=小説史を鳥瞰できる内容になっている。


早速、鴎外の「身上話」(1910)、荒畑寒村「父親」(1915)、中戸川吉ニ「寝押」(1922)、太宰治「俗天使」(1940)、川崎長太郎「ひかげ咲き」(1952)、深沢七郎「おくま嘘歌」(1962)などを読む。いずれも、その時代背景を想像しながら、短編小説の味わいを楽しむ。


荒川氏は、序文で

この百年のあいだに、「新潮」に発表された数多い短編から、三八編を選ばせてもらった。力いっぱい選んだ。
・・・(略)・・・
文学の美しさ、豊かさを堪能いただきたい。名作は「自分が書いたものだ」という気持ちで読むのもいい。・・・・・・・・・ (p7)


と、名作は「自分が書いたものだ」という気持ちで読むといい、とアドバイスしている。「力いっぱい選んだ」という編者のことばを、受けとめよう。


それにしても、太宰の文章の巧さが際立っている。『斜陽』や『人間失格』を読み、太宰を卒業していたと思い込んでいたが、とんでもない。太宰治こそ、全作品を読むに相応しいことを、あらためて発見した。


文学作品の評価は、100年くらいの歴史を経て評価に値するもののみが残されることが、この特集によってよくわかる仕組みになっている。


「文学の美しさ、豊かさを堪能」しようと思う。



新潮社の『名短篇』
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/meitanpen/index.html



■追記(2004年12月13日)

荒川洋治には、「一年一作百年百作ー1900〜1999」(『文学が好き』、p164−190)の労作があることも指摘しておきたい。このリストこそ、日本近代文学史そのものであるといっても過言ではない。長短編を併せて、100作のリストにコメントを付したものであり、テクストは現物をあたることになるが、読書の指針として参考になる。



荒川洋治の著作

本を読む前に

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夜のある町で

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文学が好き

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忘れられる過去

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