ターミナル
『ターミナル』(2004、米)を観た。スピルバーグ監督に、トム・ハンクス主演とくれば期待度も高まる。
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空港で生活する人々といえば、『パリ空港の人々』(1993、仏)が想起される。その『パリ空港の人々』から見れば、『ターミナル』はいかにもアメリカ的な楽天性に満ちたおとぎ話にすぎない。巨大な空港のターミナルはセットらしいが、セットの素晴らしさのみが誇張され、ドラマの凡庸さがセットとの均衡を欠いたものになってしまった。
トム・ハンクスが、東ヨーロッパのクラコウジアなる国からアメリカにきた動機が、後半に明らかになるわけだが、しかもそのキーワードが、ジャズであれば、もう少しドラマ性を高める要素があってもいいのではないだろうかと文句の一つも言いたくなる。
まあ、そうは言っても、さすがはスピルバーグ、随所に見せ場を用意している。トム・ハンクスが、空港の人々と仲良くなって行く過程とか、空港管理警備局のスタンリー・トゥッチの官僚的態度への接し方には、思わず笑ってしまう。
登場人物が、最初はそれぞれ、いかにもステロタイプに画面に出てくる。トム・ハンクスの人柄が、周囲の人々を本来の親しみやすい人物に変貌させて行く手法など、手馴れたものだ。キャサリーン・ゼタ=ジョーンズは、不倫の相手に振り回されるベテランのスッチー。美人で、スタイルが良くて、リッチな女性が、空港に住むトム・ハンクスに惹かれるのも、不自然な設定だが、そこは映画的なセオリーに従っている。
入国拒否のスタンプを律儀に押しつづけるゾーイ・サルダナ、彼女を好きになるディエゴ・ルナ、「アポはとったか」といつも確認する掃除人のクマール・パラーサ、上司の命令に忠実ではあるけれど、人情に厚い移民局の役人バリー・シャバカ・ヘンリーなど、脇役陣も個性的な俳優で固めている。
スピルバーグのフィルムは、逆光のなかで、光が溢れるとき、物語の起伏や発展にかかる。
『未知との遭遇』や『E.T.』がそうであったように。スピルバーグ的世界とは、異世界に立ち入ること、あるいは異物と遭遇することから物語が綴られて行く。そして光あふれる世界での体験が、主人公たちを変貌させて行く。この方式が、一貫してスピルバーグ的遭遇として、異星人、鮫、暴走する車、戦場などと同様に、『ターミナル』では、空港という非日常的世界の人々=異人たちとの出会いとして、描かれる。その意味では、SFでもなく、CGを用いなくとも、『ターミナル』はまぎれもなく、スピルバーグ的世界の刻印を帯びている、と言っていいだろう。
スピルバーグとは、一種の映画職人の別名にほかならない。どんな映画を撮っても、それなりに楽しく見せてくれる。職人芸の域に達しているといっては、失礼だろうか。ハワード・ホークスやヒッチコックが、映画職人であったように、同様の意味でスピルバーグを職人監督と呼びたい誘惑にかりたてられる。決して、芸術家ではないスピルバーグこそ、彼のフィルモグラフィに相応しいだろう。
『ターミナル』公式サイト
http://www.terminal-movie.jp/
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