須賀敦子の方へ


松山巌著『須賀敦子の方へ』(新潮社,2014)読了。 河出書房版『須賀敦子全集』の編集者であり、その8巻に、詳細な年譜を記載した松山巌氏にとって、須賀敦子さんの生涯を追体験する伝記の執筆は必然であった。


須賀敦子の方へ

須賀敦子の方へ


須賀敦子がフランスへ向けて、旅立つまでを作品・書簡とは別に、関係者に聞書きすることで、彼女の人生は、困難や問題に直面すると、あらためてそこからスタートを切ると、著者は云う。

彼女の生涯を手短に辿ると、須賀は困難にぶつかる度に、常にすべて一から始めている。コルシア書店への参加、日本文学のイタリア語訳、東京でのエマウス運動、大学教師、そして作家。何事も偉ぶらず基礎から考え、学び、自問する。これが彼女の自分らしさだ。(p266−270)


『ミラノ 霧の風景』(1990)で私たちの前に、出現したときの衝撃は、尋常ではなかった。続く『コルシア書店の仲間たち』(1992)、『ヴェネツィアの宿』(1993)、『トリエステの坂道』(1995)、『ユルスナールの靴』(1996)、『時のかけらたち』(1998)、『遠い朝の本たち』(1998)、『本に読まれて 』(1998)、『地図のない道』(1999)などを読んだことを思い出す。再読したい書物である。


コルシア書店の仲間たち (文春文庫)

コルシア書店の仲間たち (文春文庫)

ヴェネツィアの宿 (文春文庫)

ヴェネツィアの宿 (文春文庫)

トリエステの坂道 (新潮文庫)

トリエステの坂道 (新潮文庫)

ユルスナールの靴 (河出文庫)

ユルスナールの靴 (河出文庫)


須賀敦子の父が、鴎外の『澁江抽斎』を渡欧に際して、娘に送っていたことが本書で知らされた。

渋江抽斎 (岩波文庫)

渋江抽斎 (岩波文庫)



この二冊の評伝から、富士川英郎須賀敦子の間には、鴎外の史伝が媒介していたことの発見があった。