鶴見俊輔氏を追悼する


戦後思想家がまた一人亡くなった。鶴見俊輔氏享年93歳。プラグマティズム哲学の紹介。雑誌『思想の科学』の創刊。広範な知的興味による批評の展開。



マンガへの理解と興味。山上たつひこ「ガキデカ」評価は、はその代表だった。
加藤周一氏の逝去が、戦後思想の終焉だったとすれば、鶴見俊輔氏は、もうひとつの戦後思想家の終わりを告げた。


限界芸術論 (ちくま学芸文庫)

限界芸術論 (ちくま学芸文庫)


鶴見氏は行動の人でもあった。「ベトナムに平和を!市民連合ベ平連)」の結成と、脱走米兵の逃亡援助という具体的な行動。
思えば、戦後思想家として、若者たちに多大な影響を与えた人達に連なる。


死霊(1) (講談社文芸文庫)

死霊(1) (講談社文芸文庫)

不合理ゆえに吾信ず

不合理ゆえに吾信ず


埴谷雄高(1909−1997)の『死霊』。「未来の人」への文学・思想の伝達を、作品に残した。


改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)

改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)

最後の親鸞 (ちくま学芸文庫)

最後の親鸞 (ちくま学芸文庫)

「反原発」異論

「反原発」異論


吉本隆明(1924−2012)の膨大な著作と講演。『共同幻想論』『最後の親鸞』など多数。しかし、3.11後の「原発肯定論」は科学者としての矜持が、晩節を汚したことになった。思想家は、時代と歴史の検証を経ることで、生き続ける。


〔新装版〕 現代政治の思想と行動

〔新装版〕 現代政治の思想と行動

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)


丸山眞男(1914−1996)。『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『日本の思想』『戦中と戦後の間』『「文明論之概略」を読む』『忠誠と反逆』、生前に刊行された本は少ないが、没後、この人に関する著作は、講義録、談話集、書簡など網羅されつつある。丸山眞男氏を肯定するにせよ、否定するにせよ、毎年一定の研究書や評伝が刊行される、戦後最大の「思想家」であり続けている。「超国家主義の論理と心理」は「無責任体制」と「抑圧の委譲」という日本政治の負を剔抉した。


日本政治思想史研究

日本政治思想史研究


加藤周一(1919−2008)。「知の巨人」に相応しい。『雑種文化』『日本文学史序説』など多数。『夕陽妄語』は伝説の新聞掲載評論だ。博覧強記の知性が老いても魅力的だった学者だった。


日本文学史序説〈上〉 (ちくま学芸文庫)

日本文学史序説〈上〉 (ちくま学芸文庫)

日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)

日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)

夕陽妄語 8

夕陽妄語 8


ところで、漱石山脈と云うことばがある。『夏目漱石周辺人物事典』があり、同時代の知識人福澤には『福澤諭吉とその門下書誌』が編集されている。


夏目漱石周辺人物事典

夏目漱石周辺人物事典

福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)

福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)


門下生を輩出した漱石。丸山政治学を学んだゼミ生の活躍。漱石丸山眞男は、時代を超えて共鳴するところがある。研究文献の多さという点でも漱石丸山眞男は、活躍した分野は異なるが、<近代>の枠組みでは、共通しているように見える。


丸山眞男講義録〈第7冊〉日本政治思想史 1967

丸山眞男講義録〈第7冊〉日本政治思想史 1967


情報化社会、ネット社会が、「知の巨人」たる知識人を埋没させている現状は、鶴見俊輔の死により、決定的となり、「そして誰もいなくなった」とつぶやかざるを得ない。