旅の途中
- 作者: 筑紫哲也
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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筑紫哲也『旅の途中』(朝日新聞,2005)は、安東仁兵衛で始まり、最後を丸山眞男で締めている。丸山眞男を囲む会として、福澤諭吉の『文明論之概略』の輪読などを行っていた。筑紫氏がいうとおり、毀誉褒貶の激しい人だが、汗牛充棟ただならぬほどの「丸山眞男論」が輩出しているが、全体像として丸山氏を捉えた論考は多くない。丸山氏は近代の思想家でおそらく研究文献目録が最も多い人だろう。
- 作者: 丸山眞男
- 出版社/メーカー: 未来社
- 発売日: 1964/05/30
- メディア: 単行本
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丸山眞男論は、その多くが氏のいう「夜店」=『現代政治の思想と行動』を中心とした批判。丸山氏の本業は、「日本政治思想史」だ。従って、仮に「丸山眞男論」を書くならば、「夜店」と「本店」の双方に言及しなければならない。近代主義者としての批判、あるいは、「福澤惚れ」にからめて「脱亜論」をキーワードとする批判が多いようだ。
福澤諭吉の本心は、「痩我慢の説」にあるとみる。「立国は私なり、公に非ざるなり。」(p.559,福澤諭吉全集6)
谷沢永一は『紙つぶて自作自注最終版』のなかで、「痩我慢の説」は榎本武揚批判であり、「勝海舟はとばっちりであった」(57頁)と、解釈しているが、小林秀雄『福澤諭吉』によれば、海舟も榎本武揚と同罪である、と福澤諭吉の論説を紹介している。
福澤が、読者に注目せよと言ふのは、「勝氏が和議を主張して幕府を解きたるは誠に手際よき智謀の功名なれども、之を解きて主家の廃滅したる其廃滅の因縁が、偶ま似て一舊臣の為めに富貴を得せしむるの方便と為りたる姿」である。この姿をいかに感ずるか、その勝自身の心底である。榎本は、咸臨丸で戦没した脱走士の為に建てられた碑に「食人之食者死人之事」と大書したが、彼も往年の自分の部下等の惨状を知っていた筈である。「夜雨秋寒うして眠就らず残燈明滅獨り思ふの時には、或る死霊生霊無数の暗鬼を出現して眼中に分明なることもある可し」
これを美文と間違へるのは愚かであらう。彼は、先入主なく、平静に、道徳といふものを考へ詰め、人の心底にある一片の誠心に行着いたまでだ。(p.338,小林秀雄全集12)
筑紫哲也『旅の途中』から丸山眞男→福澤諭吉→小林秀雄へと、話は脱線し中途半端になってしまった。絲山秋子さんの芥川賞受賞のニュースが入り、「この項は続く」としたい。