ワンコイン悦楽堂


早熟の悲劇というものがある。灘中学・高校時代に高橋源一郎に「尊師」と呼ばれ、東大時代には、内田樹修士論文モーリス・ブランショ論」を徹底して批判した。その人の名は、竹信悦夫という。著者は、休暇中の旅先で遊泳中に他界。


ワンコイン悦楽堂

ワンコイン悦楽堂


『ワンコイン悦楽堂』(情報センター出版局,2005.12)は、内田樹高橋源一郎の対談「若き竹信悦夫の天才性の分析」から読む。灘中学時代に「小林秀雄論」を書き、インテリ源チャンが作家となるほど大きな影響を与えたらしい。東大時代は、内田氏に思想的なことを特別に語ることはなく、友人として天才的に接していたようだ。修士論文が批判されたため、レヴィナスにたどり着いた内田氏の現在がある。竹信悦夫は、人に刺激を与え育てることに長けていたようだ。灘高−東大のエリートコースを進み、新聞社に職を得る。早熟の天才とは、若くして老成してしまうため、その後平凡な日常を送ることなど、想像できない。


本書もネットから出版されたものだが、経緯は全く異なる。対談を読むかぎり、一種のカリスマ的存在であったことが分かる。若くして万巻の書物を読みつくし、もはや学ぶべきことがないとは天才の悲劇があらかじめ予見されているようなもの。しかし、奥さんの竹信三恵子さんの「あとがき」を読むかぎり、天才は幸せな生活を送ったようにみえる。


天才は、こんな本(翻訳)を出していた。

サウジアラビア (目で見る世界の国々)

サウジアラビア (目で見る世界の国々)

アフガニスタン (目で見る世界の国々)

アフガニスタン (目で見る世界の国々)



凡人の私にとって、中・高校時代に早熟なる天才に出会っていたら、その時点でひどく疲れてしまうだろう。凡人には凡庸な生き方が一番。それでなくとも、読むべき万巻の書物が圧倒的な量として迫ってくる。積読の本の背表紙をながめながら、凡人らしくマイペースで読むしかない。


以下、未読の内田本・高橋本をあげて、凡人らしく空白を埋めよう。


内田樹積読

知に働けば蔵が建つ

知に働けば蔵が建つ

死と身体―コミュニケーションの磁場 (シリーズ ケアをひらく)

死と身体―コミュニケーションの磁場 (シリーズ ケアをひらく)

レヴィナスと愛の現象学

レヴィナスと愛の現象学


高橋源一郎積読

ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ

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性交と恋愛にまつわるいくつかの物語

性交と恋愛にまつわるいくつかの物語

君が代は千代に八千代に (文春文庫)

君が代は千代に八千代に (文春文庫)