丸山眞男話文集・続

丸山眞男氏の生誕100年記念として、『丸山眞男集・全16巻別巻1』(岩波書店)が復刊刊行中であり、「岩波書店の新刊」8月号にて、本年末から続編「別集全5巻」刊行と予告されている。


丸山眞男話文集 続 1

丸山眞男話文集 続 1


みすず書房からは、丸山眞男手帖の会編『丸山眞男話文集』全4巻の続編が、2冊刊行済みとなっており、続編3まで刊行されるから、全7冊になる。同じくみすず書房から『丸山眞男書簡集』全5巻も刊行済みである。


丸山眞男話文集 続 2

丸山眞男話文集 続 2


これまでに上記以外に、岩波書店から『丸山眞男座談』全9冊及び『丸山眞男懐古談(上・下)』2冊が刊行済み。


丸山眞男講義録 (第1冊)

丸山眞男講義録 (第1冊)


東大での講義録は、東京大学出版会から、『丸山眞男講義録』として全7冊。

ほかに、岩波文庫平凡社ライブラリで、著作集からのセレクションが数冊刊行されている。


丸山眞男セレクション (平凡社ライブラリー)

丸山眞男セレクション (平凡社ライブラリー)


おおむね以上のような著作・座談・対話・書簡・講義録など既刊分を合計すると、
17+6+5+9+2+7=46冊となる。著作集の刊行までは、数冊しか公刊していなかったことを思えば、膨大な量となる。


丸山眞男に関する文献は、図書に限っても100冊は超え、著作以上に出版されている。


さて、私自身の関心は、日本学士院論文報告にあり、計6回の報告は、この度の『丸山眞男話文集・続2』の刊行により、全6回分すべてが揃った。6回の報告内容は以下のとおり。


1. 「闇斎学派の内部抗争」 話文集3
     1980年1月12日

2. 「江戸時代における「異端」の意味論」 話文集3
     1982年6月15日

3. 「福澤における「惑溺」という言葉」 話文集4
     1984年4月12日

4. 「江戸時代における異端類型化の試み」 話文集 続1
     1987年9月14日

5. 「福澤諭吉の「脱亜論」とその周辺」 話文集4
     1990年9月12日

6. 「福澤における文明と独立」  話文集 続2
     1992年9月14日


これを見ると、丸山眞男の関心は、福澤諭吉と異端論の二つの思想史的課題にあったことが解る。福澤論は、「脱亜論」が『時事新報』に掲載された社説であり、すくなくとも戦前の福澤全集には採録されていなかったし、伝記類も特にこの短文の社説が注目されることはなかった。


丸山真男集〈別巻〉

丸山真男集〈別巻〉


戦後になって、福澤に対する批判的言説として「脱亜入欧」があたかも福澤諭吉の思想を代表するかのような扱いを受けているが、福澤自身は、「脱亜入欧」という用語を使用していない。つまりイメージとして、「脱亜論」を福澤批判とすることにより、「後進世界であるアジアを脱し、ヨーロッパ列強の一員となる」ことを目的とした日本におけるスローガンや思想の根拠とする説であるが、福澤評価は、社説「脱亜論」のみで、論じられるべきでないことは、共有認識になっているはずである。


福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)

福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)


さて、福澤諭吉に関する論考は、岩波文庫版『福澤諭吉の哲学他六篇』に収録されており、「惑溺」と云う言葉については、「福澤における「惑溺」」で、ほぼ尽くされていると思われる。


とすれば、もう一つの異端論問題である。これは筑摩書房の『近代日本思想史講座』の第2巻「正統と異端」のみが未刊の状態になっていることと関係する。第6巻「自我と環境」に、丸山眞男は「忠誠と反逆」を寄稿している。



全8巻のうち、1959年に第1巻「歴史的概観」、第7巻「近代化と伝統」を刊行し、1961年に第8巻を刊行した時点で、第2巻「正統と異端」のみ未刊であり、残りの7冊が刊行を終えている。しかし、第2巻が未刊のまま、現在まで続いているわけだが、発刊のための「正統と異端」研究会は、丸山眞男藤田省三・石田雄など編集者により、長く継続していたようである。


「異端」研究会の一端は、藤田省三没後の著作集から窺うことができる。


異端論断章 (藤田省三著作集 10)

異端論断章 (藤田省三著作集 10)


この『近代日本思想史講座』第2巻のための研究の中間報告が、日本学士院論文報告第2回報告(『話文集3』)と、第4回報告(『話文集 続1』)に収録されている「異端論」になる。学士院論文報告では、江戸時代の朱子学における「異端」の言葉の意味や出典についての細部にわたるものであるが、「正統と異端」という広い範疇から捉えた内容ではない。


丸山眞男話文集 3

丸山眞男話文集 3

丸山眞男話文集 4

丸山眞男話文集 4


丸山眞男日本学士院論文報告からわかることは、「夜店」から「本店」に重点を移し、思想史的課題、とりわけ異端論に膨大な時間がさかれていたことである。


異端論問題の経緯については、今年末から刊行開始の東京女子大学丸山眞男文庫編『丸山眞男集・別集』全5巻に、「正統と異端」研究会での報告などが収録される予定であり、それを待ちたい。


丸山真男の世界

丸山真男の世界