映画ベストテン2014
今年も恒例の映画ベストテン。『キネマ旬報』12月下旬号に掲載されたベストテン候補リストから選出した。2014年に映画館で観た映画は、100本だった。
今年一番の話題映画は、ラース・フォン・トリアー『ニンフォマニアックVOL.1,2』だろう。このフィルムをどう観るか、観客の位相によって異なる。私は、一種のパロディあるいはコメディとして観た。性の快楽と苦痛は、両義的であり、セクシャリティに対するキリスト教的な定義への優れた批評的パロディになっている。ただこの作品は、観る者によって賛否が極端に分かれるフィルムである。
従ってベストワンは、フォルカー・シュレンドルフによる『シャトーブリアンからの手紙』になる。ドイツナチス占領下のフランス。共産主義者やレジスタンスのフランス人たちが、収容されているシャトーブリアンで起きた、名状し難い悲劇を、余計なセンチメンタリズムを排除し、鋭くかつ淡々と描ききった。観る者は、画面を凝視し続けることから逃げられない。恐るべき映画だ。エルンスト・ユンガー『パリ日記』が参照されているようだ。
フィリップ・シーモア・ホフマン主演最後の映画『誰よりも狙われた男』は、ジョン・ル・カレ原作のミステリー。派手なアクションなどないが、最後まで緊迫感で目が離せない。
デビッド・フィンチャー『ゴーン・ガール』は、失踪した妻(ロザムンド・パイク)を探し始める夫(ベン・アフレック)の、戸惑いと恐るべき女性の裏面が暴かれるが、そもそもペルソナで社会的および家庭的役割を演じているのが、人間という生き物であるとすれば、その極限に良妻の仮面を被った悪妻がいるというケースである。心理的に追いつめられるベン・アフレックは、男性が直面する関係の絶対性の一面に他ならない。それにしても、怖い映画だ。
カリン・ペーター・ネッツアー『私の、息子』は、ルーマニアにおける権力と金を持つ母親が、息子が起こした交通事故を意のままに、罪が軽減する方向へ導こうとするが、被害者の家族の実体に接して、変容する様を、ルミニツァ・ゲオルジウが強烈なキャラクターで、母を演じている。圧倒的な存在に、息子は子持ちの年上女の恋人との関係にまで干渉してくる。過剰な母と、30歳を過ぎても自立できない息子。どこかで観た構図だ。
なお、クリント・イーストウッド『ジャ−ジーボーイズ』は、当地未公開のため、未見であること、また日本映画では、安藤桃子『0.5ミリ』は、1月公開のため未見であることを申し添えたい。この2本は、ベストテンに選出する可能性が大きい。
今年2014年は、外国映画に収穫が多い年だった。日本映画が漫画やアニメを原作とした安易な製作状況が、映画の質を落としている現状に、もはや言葉もない。『蜩ノ記』『紙の月』以下、映画としてのオリジナリティが視える作品を選出した。『紙の月』の宮沢りえは、久々の映画出演だが、随分成長していた。『Good job』の染谷将太も今期待が持てる若手俳優だ。園子温、矢口史靖、石井裕也、熊切和嘉、吉田大八など、今後の作品が期待できる。
しかし、映画そのものがフィルムからデジタルに変わり、1秒24コマというフィルム固有のリズムが、デジタル化により平板化したことは否めない。19世紀が「文学の時代」、20世紀は「映画の時代」であったと云えるだろう。では、21世紀・芸術の主流は何だろうか。
旧世代(昭和生まれ)にとって、「文学」と「映画」が精神的な豊かさをもたらした。時代的な枠組みから逸脱することは難しい。21世紀は、戦争が露出している。その根底に、民族や国家のナショナリズム、宗教による世界観の差異があり、無為な戦争に至る。戦争は子どもを犠牲にする。「子どもを救え」とは、魯迅の言葉ではなかったか。
【外国映画】
- シャトーブリアンからの手紙(フォルカー・シュレンドルフ)
- ニンフォマニアックVOL.1,2(ラース・フォン・トリアー)
- グランド・ブダペストホテル(ウェス・アンダーソン)
- 誰よりも狙われた男(アントン・コービン)
- ある過去の行方(アスガー・ファルハディ)
- ブルー・ジャスミン(ウディ・アレン)
- アメリカン・ハッスル(デビッド・O・ラッセル)
- アデル、ブルーは熱い色(アブデラティフ・ケシシュ)
- ゴーン・ガール(デビッド・フィンチャー)
- 私の、息子(カリン・ペーター・ネッツアー)
次点:エレニの帰郷(テオ・アンゲロプロス)
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【日本映画】
- 蜩ノ記(小泉堯史)
- 紙の月(吉田大八)
- Good job(矢口史靖)
- 舞妓はレディ(周防正行)
- 小さいおうち(山田洋次)
- ぼくたちの家族(石井裕也)
- 私の男(熊切和嘉)
- バンクーバーの朝日(石井裕也)
- 柘榴坂の仇討(若松節郎)
- Tokyo Tribe(園子温)
次点:神宮樹林(伏原健之)
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