トリュフォー最後のインタビュー


フランソワ・トリュフォー没後30年記念出版として、山田宏一蓮實重彦トリュフォー最後のインタビュー』(平凡社,2014)がこの度刊行された。インタビュー自体は、生前に行われたいたわけだから、30年間も放置されていたことに驚いた。



山田宏一蓮實重彦が、生前のフラソワ・トリュフォーにあたかも、トリュフォーヒッチコックにインタビューした『映画術』のように、作品の細部をよみがえらせている。


定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

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ヌーヴェル・ヴァーグの旗手であったトリュフォーとは、映画にとりつかれた万年青年そのものだった。映画一本ごとに込められた映画監督の思いとはかくも強度を持つものであったとは、ひたすらスクリーンを眺める観客にはわからない。本書は、映画製作にまつわる背後に、何が起きているのかを知らせてくれる。映画にかかわったものなら、切実な事態が語られる。


トリフォーの長編は21本であるが、製作順に語られながら、アントワール・ドワネルものは、まとめられていたりと、読者にとって監督論として、参照すべき基本文献となっている。

自伝的作品『大人はわかってくれない!』(1959)が長編デビューだが、その前に、16mmを1本『ある訪問』(1954)35mm短編2本『あこがれ』(1957)『水の話』(1958)がある。『あこがれ』で自転車に乗り、疾走するベルナデット・ラフォンの新鮮な輝かしい美しさ。このモノクロの懐かしい映像で、女性にオマージュを捧げる、トリュフォーのスタイルが出来あがっている。

トリフォーの女性に対する思いは、本書347頁に語り尽くされている。

女であることは、それだけですでに男よりもはるかにすぐれているのである。男は自惚れが強すぎる。自分の力を過信しすぎるのである。だから、成功は才能だと確信して、猿のようにしかめっツラをしながら一段でも高く梯子をのぼって出世しようとする。だが、女性はすべてが偶然にしか過ぎないことを知っているのだ。女性はけっして自分の才能を自慢したりしない。女性にとって大事なことは、ただひとつ、幸福ということだけである。それ以外のことはすべてどうでもいいことなのだ。カトリーヌ・ドヌーヴはそんな「女」の典型なのである。


女性へのオマージュ、主演女優へのオマージュに満ちている。その言葉を踏まえて、トリフォーの長編21本から、とりあえずベスト5を選出する。

『大人はわかってくれない!』の少年ジャン=ピエール・レオーは、トリュフォーの分身として、アントワール・ドワネルのその後『二十歳の恋』(1962)、『夜霧の恋人たち』(1968)『家庭』(1970)と続き、総集篇『逃げ去る恋』(1978)で完結する。


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これらから代表作を選ぶとすれば、長編第一作『大人はわかってくれない!』となろう。

次に、中年男ジャン・ドサイと若いフランソワ・ドルレアックの不倫を衝撃的なラストによって終結する『柔らかい肌』(1964)をあげたい。


シャルル・デネルのプレイボーイぶりをシニカルに描いた『恋愛日記』は秀逸。

ビクトル・ユゴーの娘アデルの狂気的な愛を描いた『アデルの恋の物語』(1975)は、愛の負的強度として。

残り一本は、以下の三本から代表作『突然炎のごとく』(1961)
同じ原作者アンリ=ピエール・ロシェの『恋のエチュード』(1971)
あるいは、カトリーヌ・ドヌーヴ主演『終電車』(1980)

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いずれにせよ、トリュフォ―作品をいま改めて見直す時間的余裕がない。『トリュフォー最後のインタビュー』を読むことから喚起された、観たことの記憶が想起され、それらを複合的に勘案した結果、もう一度見たい作品5本を選出してみた。


あくめでも、とりあえずのいま見直したい映画五本である。


ピアニストを撃て
アメリカの夜
『柔らかい肌』
『私のように美しい娘』
『恋愛日記』


子どもたちの夏休みをきりとった異色作『トリュフォーの思春期』の軽やかなキャメラワークは、素晴らしいし、遺作となった『日曜日が待ち遠しい! 』は、ファニー・アルダンジャン=ルイ・トランティニャンのコンビによる軽快なコメディタッチのノワールもので楽しい。同じノワールものとして、シャルル・アズナブールを主演に迎えた『ピアニストを撃て』は、喜劇的悲劇。

女性の復讐劇『黒衣の花嫁』と『暗くなるまでこの恋を』は、ウィリアム・アイリッシュの原作もので、悲劇的要素が強い。

SF作品『華氏451』は、書物が焼かれ、暗記した者たちが、覚えた作品を朗読する光景が印象に残る。

死者をろうそくの灯で弔う『碧色の部屋』、映画製作の現場を映画化したメタ映画『アメリカの夜』。

狼に育てられた少年を育てる『野性の少年』、第二次大戦中の地下組織で演劇を守る『終電車』、かつての恋人が隣人となった悲劇『隣の女』など。

隣の女 [DVD]

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『恋愛日記』と反対のベルナデット・ラフォン主演『私のように美しい娘』の痛快さ。

数え挙げればキリがない。どの作品も素晴らしい!!!


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