ウンベルトD
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2011/01/29
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ヴィットリオ・デ・シーカ『ウンベルトD』(1952)が、DVD発売されたので早速鑑賞した。加藤周一はかつて『夕陽妄語』において、この作品に触れていたことが記憶に残っていたからだ。
- 作者: 加藤周一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/05/14
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調べてみると、2002年1月23日付け「朝日新聞」掲載の「日常性と非日常性」というタイトルのもと、老人・ウンベルトDの日常性を描いた内容を、非日常性と比較しながら形而上学的に読んでいる。
元小役人で今は年金で小犬とひっそりと暮らしている一人の男、名はウンベルト・Dで、姓はいうにも及ばないだろう男の毎日の行動を、デ・シーカの眼で見つめていれば、すべての日常的な瑣事が一種の形而上学的な意味(「それが人生だ」)を帯びて来るということもわかる。これこそは『自転車泥棒』にも増して―(略)―戦後イタリアの「ネオ・レアリスモ」の一つの極致であり、映画史への決定的な貢献の一つである。(p.84『夕陽妄語?』朝日新聞社、2004)
またゴダールもデ・シーカについて、『ウンベルトD』を評価して次のように述べている。
- 作者: ジャン=リュック・ゴダール,奥村昭夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/03/25
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デ・シーカはどうかと言えば、『靴みがき』とか『自転車泥棒』のようなまずまずの映画をつくった。でももちろん、彼の傑作は『ウンベルトD』だ。そしてあの映画は完全な興業的失敗におわったわけだ。(p.268『ゴダール全評論・全発言3』筑摩書房、2004)
加藤周一は、「日常性と非日常性」を、9・11が「日常性の中に、侵入した非日常性」という言葉で始めている。『ウンベルトD』に触発されて、日常性と非日常性の組み合わせを四つ示している。
- 日常的世界の追及。典型的な例は、デ・シーカや小津安二郎の映画。
- 非日常的な環境での非日常的な人物や出来事。典型的な例はハリウッドの商業的映画。たとえば、戦場における美男・美女の恋愛。
- 日常的世界に突然あらわれる非日常性。それによって恐怖感を強調したのがヒッチコック。
- 非日常的な状況のなかでの日常性。最も典型的な例は、サミュエル・ベケットの芝居『しあわせな日々』
- 作者: サミュエルベケット,安堂信也,高橋康也
- 出版社/メーカー: 白水社
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加藤周一によれば、日常性と非日常性の組み合わせは、映画史や表現の歴史、そしてあの9.11に起きた世界の構造の歴史的意味を理解するのに役立つかもしれない、と結ぶ。
デ・シーカの<ネオ・レアリスモ>の極致と言われる『ウンベルトD』は、50年以上を経た21世紀にも、日常の切実さが伝わる、優れたフィルムであることが分かる。
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ただし、加藤周一氏がいう小津安二郎の映画は、日常性を描いているように見えても、リアリズムとは真逆の世界であり作為された日常性であることを、承知しておく必要があるだろう。
デ・シーカの『ウンベルトD』のDVD化により、ポール・マザースキー『ハリーとトント』(1974)への影響は容易に可能であることも分る。
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