ハッピーアワー
ロカルノ映画祭で、素人女性4人が主演女優賞を受賞したことが話題となった。5時間17分の映画『ハッピーアワー』は、常識では長すぎるし、途中休憩時間があり、その都度別料金になるので、三本分の代金が必要だが、連続して一日で、観るには少し辛い。で、2日に分けてみたが、元来「即興演技ワークショップ」から出来た映画であり、娯楽映画ではない。監督はドキュメンタリー映画を製作している濱口竜介。昨年度キネ旬ベスト3だった。
- 作者: 濱口竜介,野原位,高橋知由
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第1部をみたところで、一旦、引き上げ、翌日に第2部、第3部を続けてみることになった。
4人の女性、設定は37歳。バツイチの女性看護師あかり(田中幸恵)、中学生の子どもを持ち、仕事が多忙な夫を支えている主婦・桜子(菊池葉月)、編集者を夫に持ち、唯一関西弁を話さない芙美(三原麻衣子)、それに離婚裁判中の純(川村りら)。彼女たちの会話は、きわめて日常的であり、演技を感じさせない、別言すれば素人俳優というのが、最初から分かるほど自然体であり、四人は強い絆で結ばれた同世代の友人関係にあると、彼女たち自身も思い、また観る者も、そのように見ている。ところが、純の裁判を3人が傍聴するシーンから、少しずつ歯車が狂って行く。そこには、コミュニケーションとは、極言すれば「言葉」にほかならないことを、それぞれが、悟ることになるが、その前提として、「重心」という身体的コミュニケーションのワークショプが第1部で延々とみせられる。
男女関係、上司と部下、友人関係の「言葉」を徹底して解剖する。言葉とはシニフィアンであり、所詮約束事で、あり、それぞれの心の中は分からない。いや、「心の中」とは何かをも言葉で表現しなければならない。
言葉に傷つき、言葉に信頼を失えば、生きづらい。言語によってコミュニケーションを行っていることに対する、批判的見方が、身体的な「重心」ワークショップであり、言葉とは別のつながりを最初に示唆する。しかし、彼女たちが、結局、ことばによる齟齬に気づいてしまうと、もはや人間関係の「信頼」を喪失するしかない。
あたかも、男たち、夫や編集者やサラリーマンという職業の男たちに不審を抱くことを「言葉」で表現するから、関係性を崩壊させる。あかりは「本当のこと」を話すから友人関係を信頼できると、頻繁に云う。しかし、本当のこと、真実を言葉で伝えることは、実際どこまで可能なのだろうか。
『ハッピーアワー』を観て、素人が普通のことばで自然に話していることが、実は欺瞞であることを、次第にあぶり出すような仕上りになっているが、言葉(ディスクールであり、シニフィアン)を約束として、コミュニケーションをとるしかない<人間という種>の限界を知らないことが、物語の始まりであり、終盤にむかって、「言葉」に不安を覚えることが、自身の存在を危うくさせて行くことになる。
スリリングだの、平凡な日常にある不安に陥るだの、この映画によって感じてしまうことこそが、言語的限界を知らない人たちの見かたである。つまり、言語でしか伝えられない限界を周知していないから、実に膨大な時間を消費する凡庸な作品ということにならざるを得ない。
観客に見せる映画とは、ゴダールの言うとおり90分に収めるべきもので、この内容であればせいぜい120分までに収めることができる。映画とは編集なのだ。延々とワークショップを自然時間で見せる手法は、退屈きわまりない。言葉の齟齬に気づく後半の問題も、言語学的に提示されている。それを映画で90分に収める編集技術こそが求められる。
ワークショップとは、所詮文字どおりのワークショプであり、映画にはなり得ない。ひどく疲れた。これを映画と呼ぶべきだろうか?
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ヌーヴェル・ヴァーグの推進者の一人、ジャック・リヴェットの訃報が、今年1月末、静かに報じられた。享年87歳。映画館では、リベット作品は上映時間が長く、最長12時間40分というとてつもない長さの『アウト・ワン』は余りの長さ故、上映が困難であった。実際、スクリーンで観たのは、『美しき諍い女』『パリでかくれんぼ』『ランジェ公爵夫人』3本のみであった。DVDで『ジャンヌ・ダルク』二部作を見たけれど。
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ジャック・リヴェットは特異な存在であり続けた。ゴダールが厳守する上映時間90分という神話をその圧倒的な長さで、120分未満はないほど、長さが自然であったリヴェットは、興行的に日本では、受入れ難くしてきた。
長時間映画が許されるのは、ジャック・リベット的才能があればこそ、許されるというべきだろう。
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ワークション映画『ハッピーアワー』とは、編集を学ぶことの大切さを知る「映画・の・ようなもの」なのだ。
NOBODY ISSUE44 特集:濱口竜介『ハッピーアワー』
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