書物論2012

「本の収穫2012」の掲載漏れ、前半の書物論関係の本について補足する。


◎書物の環境論
柴野京子『書物の環境論』(弘文堂,2012-07)

書物の環境論 (現代社会学ライブラリー4)

書物の環境論 (現代社会学ライブラリー4)


柴野京子『書物の環境論』は、「本の世界」を書物の流通からみた『書棚と平台』(弘文堂,2009)で日本出版学会奨励章を受賞した著者が、第二部「デジタル・インターネット時代の出版」をメインに、「現代社会学ライブラリーの第一弾の一冊として7月末に刊行されたものであり、興味深く読んだ。


書棚と平台―出版流通というメディア

書棚と平台―出版流通というメディア


書物を流通からみる柴野氏によれば、電子書籍についてアップルとアマゾンを比較しながら、次のように述べている。

キンドルが世界中を驚かせ、「電子書籍元年」の強力な根拠になった理由はそれが、世界一の出版流通グループ企業、アマゾンに接続する端末だったからである。(p.89)

iPadKindleは、事業モデルもデバイスも対照的だが、流通を事業デザインの要においている点で共通している。(p.90)


ウェブ社会を中心に、デジタル化が進む情報メディアの速さと、そのつど新しい媒体の発売。商業ベースに乗せられた私たちは、常に新しいツールに飛びついて、やれ、これで社会が変わるだの、高度情報化社会が来ただの、文字どおり情報化に振り回されてきた。

書物のデジタル化に関しても、「電子書籍元年」という言葉がこの10年間で、何回繰り返されただろう。いささか、うんざりしている。


柴野氏は言う。

ほんとうに大事なテーマは「デジタルがアナログを凌駕するのか」ではないのでないか。むしろ、「手放したくないもの」のほう、すなわち、「本や出版が私たちの生活に果たしてきた役割や機能とは何か」というところにあるのではないだろうか。・・・アナログからデジタルへという直線コースを一度はずれて、出版について考える・・・回り道のように思えても本や出版のデジタル化をとらえる一番の近道は、本や出版を理解することなのだ。(p.13-14)


柴野京子『書物の環境論』は、流通から見る本の環境について、見取り図を描いてみせ、心が落ちつく良い書物だ。



◎本棚の中のニッポン
江上敏哲『本棚の中のニッポン 海外の日本図書館と日本研究』(笠間書院,2012-05)


本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究

本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究


海外における日本図書館は、どうなっているのか、良く分からなかった。例えば、国立国会図書館が書誌データをOCLC Worldcatへ提供するという情報が2010年頃にあったが、日本語の図書(書誌レコード)を検索できる割合が、2010年6月で約300万件、2011年6月では2.5倍の750万件でやっと英独仏西に次ぐ5位にランクアップしていることが紹介されている。(157頁)

また、海外で提供される日本語のデータベースとして、JapanKnowledgeが北米から広く世界展開されていることも分かり、日本語データベースの整備問題が浮き上がってくる。海外での日本研究が進むかどうかは、日本のe-resource整備如何にかかっていることが指摘されている。(187頁以下の「アクセスされるニッポン」参照)


著者は「あとがき」で次のように記している。

日本から海外へ効率的・効果的に資料提供・情報発信できるかどうか、そうしようという姿勢を持てるかどうか、それによって最終的に影響が及ぶのは日本自身だろう、と考えています。(283頁)


松丸本舗主義
松岡正剛松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間挑戦』(青幻舎,2012-10)


松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。

松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。


◎江戸文化再考
中野三敏『江戸文化再考』(笠間書院,2012-07)



書物の環境がどう変わるのかとは、「本や出版が私たちの生活に果たしてきた役割や機能」(柴野)を再考することだろう。