日本を甦らせる政治思想


公正な税制に関連して、読了していたマイケル・サンデル『これから正義の話をしよう』(早川書房、2010)に関係する「政治思想」についての見取り図を確認すべく、菊池理夫著『日本を甦らせる政治思想 現代コミュニタリアニズム入門』(講談社現代新書、2007)を読む。


日本を甦らせる政治思想~現代コミュニタリアニズム入門 (講談社現代新書)

日本を甦らせる政治思想~現代コミュニタリアニズム入門 (講談社現代新書)


週刊東洋経済』の「政治哲学入門」特集などから、北米の政治哲学が「リベラリズムコミュニタリアニズム論争」を経て、「コミュニタリアニズム」が注目を浴びている。これを「共同体主義」と訳してしまうと、前近代的なムラ的「共同体」を想起させるので、区別するため著者は「コミュニタリアニズム」の用語で統一している。


バブル崩壊後、日本では小泉構造改革が進められたが、「構造改革」とはリバタリアン、すなわち市場原理主義であった。菊池氏の著書では、サンデルやテイラーやマッキンタイアなどの政治哲学の紹介がなされているので、「公正・正義」が話題になるアメリカやヨーロッパの政治思想的土壌が良く解る。


菊池氏によれば、20世紀にできた政治イデオロギー区分は次のとおりである。

共産主義極左)−社会主義(左派)−リベラリズム(中道)−保守主義(右派)−ファシズム(極右)(p.25)


リバタリアニズム」や「リベラリズム」は「中道右派」となり、「コミュニタリアニズム」は「中道左派」に位置する。さて、バブル景気以降、およびバブル崩壊後も、日本の哲学思想は、ポストモダンが支配的であり、経済的・政治的には、功利主義リバタリアニズムが主導的な思想であった。

日本のポストモダン左派は、コミュニタリアニズムを批判し、「他者性」や「差異性」を重視して、「共通善」について語ることはありません。(p.80)


と菊池氏は指摘し、政治哲学における「共通善」の重視と、そのために「コミュニティ」の再生が必要であるという。

共通善の範囲ですが、まず個人により身近で小規模なコミュニティにおける共通性から重視されます。つぎに国民国家もコミュニティと意識され、そのような意識が持続されていくかぎり、その成員に何らかの伝統として確立された共通性が必要とされ、また民主主義的な熟議や自治を通した「共通善」の実現がその政治の目的となります。(p.86)


いまの日本の政治に求められているのは、「共通善」を重視した公平・公正な富の再配分ではないだろうか。経済成長にこだわるだけでは、格差の是正は不可能であろう。


最近翻訳された、チャールズ・テイラー著『自我の源泉』(名古屋大学出版会、2010)の読書を進めているところである。


自我の源泉 ?近代的アイデンティティの形成?

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