消費税のカラクリ


斎藤貴男『消費税のカラクリ』(講談社現代新書、2010)は、消費税の仕組みや、なぜ消費税の未納率が高いのかについてしっかり説明されている。冒頭で結論的に次のように書かれている。


消費税のカラクリ (講談社現代新書)

消費税のカラクリ (講談社現代新書)

はっきり書こう。二大政党が企図している消費税の引き上げが実行されても、多くの消費者が心配しているような物価の上昇には、あまり繋がっていかないのではないか。・・・(中略)・・・この国の社会は大変な混乱に陥るはずである。中小・零細の事業者、とりわけ自営業者がことごとく倒れていく。正規雇用から非正規雇用への切り替えがいっそう加速して、巷にはワーキング・プアや失業者が群れを成す光景が見られることになるだろう。(p.5)


消費税の増税は、中小・零細の事業者、とりわけ自営業者への打撃が大きく、結果的に失業者を増加させると斎藤氏は言うのだ。


「第四章 消費税とワーキングプア」で、斎藤氏は明解に説明している。

消費税とは弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制である。負担対象は広いように見えて一部の階層がより多くを被るように設計されているし、中立的などではまったくなく、計算も複雑で、徴税当局の恣意的な運用がまかり通っている。大口の雇用主に非正規雇用を拡大するモチベーションを与えて、ワーキング・プアを積極的かつ確信的に増加させた。税収は安定的に推移しているように見えても、その内実は滞納額のワーストワンであり、無理無体な取り立てで数多の犠牲者を生みだしてきた。納税義務者にしてみれば、景気の後退イコール競争のさらなる激化であり、ということは切らされる自腹のとめどない深まりを意味している。これ以上の税率引き上げは自営業者の廃業や自殺を加速させ、失業率の倍増を招くことが必定だ。社会保障の大幅な膨張を求める税制を、同時にその財源にもしようなどというのは、趣味の悪い冗談ではないか。消費税は最も社会保障の財源にふさわしくない税目なのである。(p.133)


わたしたちが支払う消費税を、全ての業者が価格に転嫁しているわけではない。特に、斎藤氏が指摘するように中小・零細企業の場合は、下請として大企業に吸収されてしまう。


一見、公平な税制にみえる「消費税」は、背景に複雑な計算を含むもので、党派を超えて議論しなければならないのは、公平性を担保するものについてであり、所得税の累進率の見直しなどを含む税制全般についてだろう。安易に「消費税」のみを引き上げるような議論に歪曲されている、いまのマスコミやポピュリズムに惑わされないことが肝要である。


構造改革市場原理主義による格差拡大は、私たちの生活を直撃している。そもそも、公平な税制とは何なのか、また徴収された税金の使途は公平・公正に使用されているのか。このような根源的な問題に直面する。


税には素人だからこそ、斎藤氏の著書により、ここでもサンデル教授の言う「公正・正義」論議が必要であることがよく解るのだ。


これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学


所得の累進税をかつてのように再配分を前提に修正すべきだろう。消費税のみを議論するのはきわめて不公平であり、なぜ所得税法人税について触れないのか、タブーと化している税金問題を、再配分の論理から進めるべきであろう。