マイ・ブルーベリー・ナイツ


ウォン・カーウァイアメリカ映画に進出した??台詞が英語で、俳優もアメリカ・イギリス生まれ。前作『2046』(2004)が五年かけて製作したのに比べて、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(2007、仏=香港)はニューヨ−クとメンフィスでのロケ撮影を短期間に終えたようだ。


2046 [DVD]

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映像感覚や風景の撮り方をはじめ、登場人物の失恋による喪失感はウォン・カーウァイのフィルムであることを刻印している。ジュード・ロウレイチェル・ワイズナタリー・ポートマンが出演しているからと言って、ラヴロマンスを見るように映画館へ行ってはいけない。あらかじめウォン・カーウァイの作品であることを前提に観ることで、はじめて雰囲気に馴染める。


Come Away With Me

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ニューヨークのとあるカフェ。失恋したノラ・ジョーンズはオーナーのジュード・ロウが焼いたブルーベリー・パイを食べている。恋人の裏切りによる喪失感から脱出できないノラ・ジョーンズは、旅に出る。メンフィスでは、昼はレストラン、夜はバーでアルバイトをしている。毎晩、妻レイチェル・ワイズに捨てられた警察官デイヴィッド・ストラザーンは、浴びるように酒に溺れている。デイヴィッド・ストラザーンは、『グッドナイト&グッドラック』で硬派の解説者を演じていたあの役者だ。昼間は精悍な警官だが、夜になると妻を想い酒を飲む。


eros 愛の神、エロス 初回限定版 [DVD]

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そのデイヴィッド・ストラザーンが事故死すると、別れた妻レイチェル・ワイズは、不在の元亭主に想いを馳せる。すれちがい、不在の愛、恋愛の不可能性を描き続けているウォン・カーウァイの真骨頂のシークェンスだ。不在への激しい愛の揺らぎは、本作でも変わらない。映画のニューヨ−クは、香港の街と変わらない。ニューヨ−クらしさもなく、アメリカであることを意識させるのは、ナタリー・ポートマンと出会い、砂漠のなかの道路をラスベガスに向かって疾走するシーンに、アメリカン・ロードムービーを感じさせる程度で、全編無国籍的ウォン・カーウァイの世界になっている。


マイ・ブルーベリー・ナイツ オリジナル・サウンドトラック

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ノラ・ジョーンズライ・クーダーの音楽に乗せて、全編がきわめてスタイリッシュな映像になっている。いつもはワイドスクリーンを敢えて狭く撮るのだが、本作は横長のスクリーンを十分に活用している。


楽園の瑕 [DVD]

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ラストで、ノラ・ジョーンズジュード・ロウのカフェに戻り、二人の愛が結ばれるような暗示で「THE END」のマークとなる。脚本やドラマ構成が曖昧だ。ドラマとしての骨格がないといえばそれまでだが、ウォン・カーウァイのフィルムは、いつも同じパターンでストーリらしきものはない。私見によれば、『楽園の瑕』(1994)か『花様年華』(2000)が、ベスト作品であり、同じような主題を、場所を変え、時代を変えて撮っているに過ぎないといえる。


花様年華 [DVD]

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ラストシーンにこれまでにない未来を垣間見せるが、それも瞬時の夢かも知れない。なにしろ、ウォン・カーウァイの世界なのだから、恋愛が簡単に成就できるとは思えない。


恋する惑星 [DVD]

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