追悼・緒形拳

俳優・緒形拳氏の訃報を聞き、衝撃を受けている。緒形拳の作品で一番印象深いのは今村昌平監督『復讐するは我にあり』（1979）になる。詐欺師で殺人者・榎津厳役は、緒形氏の役者人生において、演じる役の幅を広げたという意味では画期的な作品だった。同じ今村作品の『楢山節考』（1983）とともに、今村リアリズムを体現した稀有の存在となった。

復讐するは我にあり [DVD]

楢山節考 [DVD]

檀一雄役になりきった深作欣二監督『火宅の人』（1986）も忘れ難い。破天荒な作家人生をまっとうした無頼派。晩年の作品に梶田征則監督『ミラーを拭く男』（2003）がある。私のお気に入りのフィルムだ。中年男の悲哀を淡々と演じる男の悲哀を背中にただよわせ、渋い理想の男性象をみせてくれた。

火宅の人 [DVD]

夏目雅子と共演した貴重なフィルム、相米慎二監督『魚影の群れ』（1983）も代表作の一本にあげたい。相米監督も夏目雅子も、既に他界している。不在の人たちによる映画。これぞまさしく映画として残された芸術的遺産ではあるまいか。

魚影の群れ [DVD]

山田洋次の時代劇、『隠し剣　鬼の爪』（2004）の家老役、『武士の一分』（2006）の剣道指南役など、老成した達意の武士、多彩な役柄を演じつつ年を重ねるに従って、悟りの境地に達したと思える演技。実に惜しい俳優をなくした。

隠し剣 鬼の爪 [DVD]

武士の一分 [DVD]

ご冥福を祈りたい。合掌。

■緒形拳の作品

ええじゃないか [DVD]

鬼畜 [DVD]

大誘拐 RAINBOW KIDS [DVD]