フェルメール展
東京都立美術館で開催されている「フェルメール展」に行ってきた。9月10日(水)の午後。平日だというのに、待ち時間が20分、入場券を窓口で購入するのに約10分。従って、会場に到着し、絵画を観るまでに30分を要した。この分だと、土日の混雑ぶりが予測される。なぜ、フェルメールがこんなに人気があるのか。
今回展示されているフェルメール作品は七点。「マルタとマリアの家のキリスト」(スコットランド国立美術館・エジンバラ)、「ディアナとニンフたち」(マウリッツハイス美術館・ハーグ)、「小路」(アムステルダム国立美術館)、「ワイングラスを持つ娘」(ヘルツォーク・アントン・ウルリヒ美術館・ブラウンシュヴァイク)、「リュートを調弦する女」(メトロポリタン美術館・ニューヨーク)、「ヴァージナルの前に座る若い女」(個人蔵)、そして特別展示として「手紙を書く婦人と召使い」(アイルランド国立美術館・ダブリン)。
ウィーン美術史館所蔵「絵画芸術」*1は「作品保護のため出品不可」とのこと。美術品は、本来それを所蔵している場所に赴き、鑑賞するというのが本来の見方であろうが、一度に七点のフェメールを観る機会は貴重だ。この機会を見逃すようなことはしたくなかった。
今回でフェルメール作品の来日は、1968年以来12回目になるという。回を追うごとに観客の動員が増え、前回の「牛乳を注ぐ女」展示では、一日あたり6,880人、合計 49万5,362人という信じられない数字である。西洋絵画への関心が深まるのは良い傾向だ。しかし、人気のある画家に集中するのは如何なものか。
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有吉玉青『恋するフェルメール』(白水社、2007.7)のように、全点鑑賞の旅を記録した本が出版されるくらい人気が高い。これは、他の画家には見られない現象だ。「見る」より「見に行く」ものとしての絵の典型がフェルメールなのだろう。小林頼子・朽木ゆり子『謎ときフェルメール』(新潮社、2003.6)も、フェルメール入門に手頃な本。
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もちろん、フェルメールの作品のオリジナルを眼前にすることの意義は大きい。しかし、いわゆる感動という味わいとは異なった、一種静謐な、観ることの喜びをフェルメールから感じさせられる。フェルメールの室内作品は、概ね画面左側に窓があり、光が左から右に射していて、その窓辺に女性が佇むか座るか、本(読書)や楽器や手紙や牛乳などを小道具として描かれる。最も著名な作品が、今回出品不可となった「絵画芸術」だが、この作品に含まれる寓意については既に多くの識者から指摘されている。今回の作品ではとりわけ、「小路」が気になった。クロ−スアップされた家の壁面と、通路や玄関にいる自然体の人物が配置されているところに。
今回の展示作品のなかでは、フェルメール以外のデルフトの画家カレル・ファブリティウス「楽器商のいるデルフトの眺望」と、ロッテルダムのピーテル・デ・ホーホ「窓辺で手紙を読む女」に魅かれた。いづれも、フルメールの作品に関係すると感じた。個人的な感想であり、絵画史的な根拠はないが、フェメールも同時代の作画の傾向とは無縁でなかったことが分かる。
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私自身の好みからいえば、フェルメールと同じ十七世紀のラ・トゥールになる。フェルメールは十九世紀に発見され、ラ・トゥールは遅れて二十世紀に発見されたが、同じように二十世紀には評価が定まり、なおかつ残された作品が極端に少ない。しかも、光と影が絵画の基本になっている。知名度からいえば、圧倒的にフェルメールである。『ユリイカ』2008年8月号、『芸術新潮』2008年9月号がそれぞれ、今回の「フェルメール展」に合わせて出版されている。しかし、ラ・トゥールの場合は、ここまで大きく取り上げられなかった。むしろそのほうが幸いであると思っている。ラ・トゥールが、フェルメールと同じように大衆化されるとラ・トゥールのファンとして困惑する。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール―再発見された神秘の画家 (「知の再発見」双書 (121))
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