レンブラントの夜警
ピーター・グリーナウェイ監督最新作『レンブラントの夜警』(Nightwatchnig, 2007)を観る。『英国式庭園殺人事件』もそうであったように、グリーナウェイは絵画への造詣が深い。また、『コックと泥棒、その妻と愛人』では、レストランの壁にはたしかフランス・ハリス「聖ハドリアヌスの市民隊の宴会」が飾られていたように思う。
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「夜警」そのものに多くの謎があることがつとに指摘されてきたが、グリーナウェイはそれらの謎をある理由により一挙に解決しようと試みる。「夜警」に描かれた人物たちがレンブラント(マーティン・フリーマン)に襲いかかり、舞台の中央に据えられたベッドから裸で放り出される悪夢のシーンから映画は始まる。舞台の中央にベッドあるいはテーブルが置かれた舞台劇のように物語が展開される。
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映像作家と呼ばれるピーター・グリーナウェイの仕掛けは、作品ごとに工夫が凝らされ、観るものを華麗な映像美の世界に引き込ませる。『レンブラントの夜警』も16世紀オランダを背景とする時代ものだが、画家レンブラントは、妻サスキア(エヴァ・バーシッスル)に支えられ順風満帆の絶頂期にあった。
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市警団から集団の肖像画の依頼がくるが、その背景に陰謀があることを察知したレンブラントは、「絵筆は画家の武器だ。何でもできるー侮辱も、告発も」と決意し、「夜警」に市警団の陰謀を告発するような描き方をする。
市警団はレンブラントに残酷な復讐をして行く。市警団の愛人であるヘールチェ(ジョディ・メイ)が画家のもとへ送りこまれ、レンブラントはその女性とのセックスに溺れることで、妻の死を忘れようとするが、所詮肉体への執着では、癒されないことを知る。三人目の女性は少女のときから家政婦として仕えていた召使のヘンドリッケ(エミリー・ホームズ)で、彼女によって初めて救われる。
市警団の一人が「夜警」の絵を批判することばが、この映画を象徴している。「お前の絵の中にいるのはすべて俳優、一人を除いて。お前自身の自画像だ。新しい様式の絵に自分自身を古い様式で描き、画家としての責任を放棄した。」と酷評することばがまさしく、映画『レンブラントの夜警』への自己規定であると言えよう。
ピーター・グリーナウェイは、インタビューのなかで「映画の重要なテーマ」を聞かれて、「<セックスと死>以外に何があるというのだろうか。」と答えている。<セックスと死>とは、類としての人間が存続するための基本であるが、個人がその究極の意味を理解することなく、生まれ老いて死んで行く。『英国式庭園殺人事件』(1982)以降、『ZOO』(1985)『数に溺れて』(1988)を経て『コックと泥棒、その妻と愛人』(1990)から『プロスペローの本』(1991)『ベイビー・オブ・マコン』(1993)『81/2の女たち』(1999)、そして『レンブラントの夜警』(2007)に至るまで、「セックスと死」がテーマであったと言っても過言ではない。
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