好きだ、


17歳のユウ(宮崎あおい)は、同級生ヨースケ(瑛太)に心がひかれている。学校からの帰途、川辺で二人は会うのだが、ほとんど会話がない。二人を捉えたキャメラは、青空の空ショットと交互にカットバックされる。ユウには姉(小山田サユリ)がいるが、姉は最近、好きな人を交通事故で亡くしたばかりでユウは気がかりだ。川辺で二人は、一瞬キスを交わすが、それ以降の発展もなく、寡黙な状態が継続する。ギターを弾きながら曲づくりをしているヨースケに、姉を会わせることで、姉の気持ちが回復する。しかし、ある日の待ち合わせに急ぐ姉は、恋人と同様事故に会ってしまう。


好きだ、 [DVD]

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キャメラ長回しで、二人の表情をじっくり捉えるけれど、テンポが緩慢なために、物語的な進展に乏しい。もちろん、二人の間の雰囲気や空気を撮っているのは、これが二作目の監督・石川寛。(第一作は『tokyo.sora』)


tokyo.sora [DVD]

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作品は二部構成になっている。34歳になったヨースケ(西島秀俊)は、音楽関係の仕事をしている。仕事帰りに酔って道端に眠り込む女性(野波麻帆)を見かけるがとおりすぎようとすると、不審な男(加瀬亮)が彼女の財布を盗もうとする。その姿をじっと見つめているため、男は立ち去る。酔った女性を、自宅へつれて帰り、水を飲ませて介抱する。34歳のヨースケのナレーションは、17歳の瑛太とは異なり饒舌だ。17年後の世界は、セピア色の画調で統一されている。


ある日、34歳のユウ(永作博美)がギターを持ってレコーディングスタジオに現れる。二人はぎこちないながらも、言葉を交わし合い抱擁する。キャメラは、長回しで表情と雰囲気をじっくり捉える。カットバツクされる空の色調は暗い。緩慢なストーリーと、対象に絡むキャメラは、映画の主題を示す雰囲気を現しているようだ。


観る者は、ひたすらスクリーンを凝視し、映像に写る人物をじっと見つめることになる。17歳の宮崎あおい瑛太の前半の寡黙さと空の青さ、34歳の西島秀俊永作博美の赦し合うような雰囲気とセピア調の色彩。映像の触覚的な味わいを感じるフィルムだ。


宮崎あおい DVD-BOX

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俳優のそれぞれの持ち味が、これまでとは違い、何かが異なる。俳優の個性か、あるいは監督の演出によるものなのか。にわかには判定しがたい。一味異なる、宮崎あおい西島秀俊永作博美瑛太加瀬亮野波麻帆たちが『好きだ、』の中で輝いて見える。相変わらず変幻自在な加瀬亮の不審な男は、絶妙な存在。また、酔った野波麻帆の女性の素直な本音が語られる光景は、フィルムに刻印された固有の時間を感じさせる。
じっくり観ると、なんとも素敵な映画に仕上がっている。いわば映画の文法をズラした面白さとでも形容すべき作品になっている。作風が、初期の是枝裕和に似ているようにも思えるが、似て非なるフィルム。自然の音が意図的に採録され、田舎の静かな世界と17年後の都会の喧騒による雑音を敢えて排除しない姿勢は、いかにも自然をそのまま捉えているように見えるけれど、実は作為された映像にほかならない。それを自然と感じさせるところが、監督の手腕なのだろう。


『好きだ、』は、2005年度ニューモントリオール国際映画祭で「最優秀監督賞」を受賞した作品。これが二作目の石川寛は、今後が楽しみな監督だ。


tokyo.sora FILM BOOK

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