タイガー&ドラゴン『脚本』
テレビドラマ『タイガー&ドラゴン』が終了し、金曜日の楽しみがなくなったので、宮藤官九郎・脚本『タイガー&ドラゴン』(角川書店)を読む。TVドラマとしては、五回目の『厩火事』から観たので、まずはそれ以前のドラマのあらすじを知ることが先決であった。書籍版は、11話分の脚本、つまり「シナリオの部」と「落語の部」で構成されている。
- 作者: 宮藤官九郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/06/25
- メディア: 単行本
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第一回『芝浜』から読み、『権助提灯』にいたり、どん兵衛(西田敏行)が虎児(長瀬智也)に語る「せりふ」に、「古典落語」の真髄が語られていた。
古典落語ってのは全て人間を描いているんだ、人間をしらなきゃ古典はできないよ、いいかい?お前さんがた若いもんは、年食ったら人間丸くなると思ってんだろ?冗談じゃないよ、生きるってのは後悔の連続だ!しかも体は老いる、残りの時間は減っていく、丸いのは外面だけで、内面はガタガタなんだよ、この隕石みたいにね(p.144−145)
「古典落語ってのは全て人間を描いている」という言葉は、ドラマ『タイガー&ドラゴン』を象徴している。「理」の世界ではなく、「情」の世界。家族が解体し、個人が孤立している時代だからこそ、「古典落語」の「情」の「共同体」が輝いて見える。
しかも『権助提灯』には、どん兵衛(西田敏行)と組長(笑福亭鶴瓶)の青春時代が主な内容になっている。伏線どころか森下愛子をめぐる三角関係そのものが、描かれているのには参った。最初から観ておけば、その後の展開が、いわば必然的なドラマ展開であったわけだ。『出来心』で、西田敏行と笑福亭鶴瓶が、お笑いのコンビとして回想されるが、実は、それ以前に、大学の同窓生であったことが、『権助提灯』では示されていたわけだ。
また、『芝浜』『饅頭こわい』『茶の湯』『権助提灯』で、メグミ(伊東美咲)の前歴とキャラが良くわかった。青森で結婚していたことや、銀次郎(塚本高史)に惚れられたこと、虎児(長瀬智也)と恋人関係にあり、その後、『厩火事』以降で、竜二(岡田准一)との関係を築いて行くことになったのだった。さらに、『権助提灯』での森下愛子を巡る西田・鶴瓶の三角関係が、伊東美咲をメグる長瀬智也と岡田准一の三角関係に重ねられていた。見事な重層構造になっている。
シナリオ『タイガー&ドラゴン』で読むと、古典落語を元ネタに、噺を現代風に「脱構築」(?)した、新たな「新・古典落語」といえる内容だった。宮藤官九郎の才能に、あらためて舌を巻き、土台がしっかりしている上に構成の工夫や、ゲスト出演の巧みな導入、俳優とシナリオの優れた一致ぶりには、「恐れ入りました」と絶句するほかない。
ドラマを観て、シナリオで読むと面白さが倍増するとともに、その仕掛けが分かり、いかにこのドラマが突出しているかが、了解できた。映画『GO』ではここまで成長すると意識していなかったが、昨年公演された舞台劇『鈍獣』では、第49回岸田國士戯曲賞を受賞している。
- 作者: 宮藤官九郎
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- 発売日: 2005/06/01
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ドラマ『タイガー&ドラゴン』は、一話に詰めている内容が充実していたし、『子別れ』(『子は鎹』)でドラマと別れるのは、なんとも淋しい。これは、ぜひ、映画として特別完結編を製作して欲しいとつくづく思う。
「タイガー、タイガー、じれったいガー!」映画になれ、期待してまっせ、ほんと。
・クドカンの快進撃はここから始まった
- 作者: 金城一紀,宮藤官九郎
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・佳作『ピンポン』もクドカンの脚本だった
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・そしてついにクドカンの初監督作品『真夜中の弥次さん喜多さん』で大ブレイク
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