タイガー&ドラゴン『脚本』


テレビドラマ『タイガー&ドラゴン』が終了し、金曜日の楽しみがなくなったので、宮藤官九郎・脚本『タイガー&ドラゴン』(角川書店)を読む。TVドラマとしては、五回目の『厩火事』から観たので、まずはそれ以前のドラマのあらすじを知ることが先決であった。書籍版は、11話分の脚本、つまり「シナリオの部」と「落語の部」で構成されている。


タイガー&ドラゴン

タイガー&ドラゴン


第一回『芝浜』から読み、『権助提灯』にいたり、どん兵衛西田敏行)が虎児(長瀬智也)に語る「せりふ」に、「古典落語」の真髄が語られていた。

古典落語ってのは全て人間を描いているんだ、人間をしらなきゃ古典はできないよ、いいかい?お前さんがた若いもんは、年食ったら人間丸くなると思ってんだろ?冗談じゃないよ、生きるってのは後悔の連続だ!しかも体は老いる、残りの時間は減っていく、丸いのは外面だけで、内面はガタガタなんだよ、この隕石みたいにね(p.144−145)


古典落語ってのは全て人間を描いている」という言葉は、ドラマ『タイガー&ドラゴン』を象徴している。「理」の世界ではなく、「情」の世界。家族が解体し、個人が孤立している時代だからこそ、「古典落語」の「情」の「共同体」が輝いて見える。


しかも『権助提灯』には、どん兵衛西田敏行)と組長(笑福亭鶴瓶)の青春時代が主な内容になっている。伏線どころか森下愛子をめぐる三角関係そのものが、描かれているのには参った。最初から観ておけば、その後の展開が、いわば必然的なドラマ展開であったわけだ。『出来心』で、西田敏行笑福亭鶴瓶が、お笑いのコンビとして回想されるが、実は、それ以前に、大学の同窓生であったことが、『権助提灯』では示されていたわけだ。


また、『芝浜』『饅頭こわい』『茶の湯』『権助提灯』で、メグミ(伊東美咲)の前歴とキャラが良くわかった。青森で結婚していたことや、銀次郎(塚本高史)に惚れられたこと、虎児(長瀬智也)と恋人関係にあり、その後、『厩火事』以降で、竜二(岡田准一)との関係を築いて行くことになったのだった。さらに、『権助提灯』での森下愛子を巡る西田・鶴瓶の三角関係が、伊東美咲をメグる長瀬智也岡田准一の三角関係に重ねられていた。見事な重層構造になっている。


シナリオ『タイガー&ドラゴン』で読むと、古典落語を元ネタに、噺を現代風に「脱構築」(?)した、新たな「新・古典落語」といえる内容だった。宮藤官九郎の才能に、あらためて舌を巻き、土台がしっかりしている上に構成の工夫や、ゲスト出演の巧みな導入、俳優とシナリオの優れた一致ぶりには、「恐れ入りました」と絶句するほかない。


ドラマを観て、シナリオで読むと面白さが倍増するとともに、その仕掛けが分かり、いかにこのドラマが突出しているかが、了解できた。映画『GO』ではここまで成長すると意識していなかったが、昨年公演された舞台劇『鈍獣』では、第49回岸田國士戯曲賞を受賞している。


鈍獣

鈍獣


ドラマ『タイガー&ドラゴン』は、一話に詰めている内容が充実していたし、『子別れ』(『子は鎹』)でドラマと別れるのは、なんとも淋しい。これは、ぜひ、映画として特別完結編を製作して欲しいとつくづく思う。

「タイガー、タイガー、じれったいガー!」映画になれ、期待してまっせ、ほんと。


クドカンの快進撃はここから始まった

宮藤官九郎脚本 GO

宮藤官九郎脚本 GO

・佳作『ピンポン』もクドカンの脚本だった

ピンポン ― 2枚組DTS特別版 (初回生産限定版) [DVD]

ピンポン ― 2枚組DTS特別版 (初回生産限定版) [DVD]

ゼブラーマン』は、哀川翔100本目の出演作品だった

ゼブラーマン

ゼブラーマン

・映画版『木更津キャッツアイ』からクドカンの名が急上昇した

木更津キャッツアイ 日本シリーズ [DVD]

木更津キャッツアイ 日本シリーズ [DVD]

・そしてついにクドカンの初監督作品『真夜中の弥次さん喜多さん』で大ブレイク

くど監日記 真夜中の弥次さん喜多さん

くど監日記 真夜中の弥次さん喜多さん