パッチギ!
井筒和幸監督の『パッチギ!』を観た。1968年という限定された時代を対象としながらも、青春映画としての普遍性を獲得している傑作になっている。
1968年の京都、府立高校生、朝鮮高校生、大阪ホープの会など少年から青年期へ育ちつつある若者たちの群像劇。根底には、在日、つまり強制労働者として日本へ連行されてきた一世の悲劇が流れている。「イムジン河」の唄によって、南北に分断された朝鮮半島の統一という悲願の思いが込められている問題作だ
『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』とあわせると三部作となるが、前二作と同様『パッチギ!』も新人若手俳優を多数起用しており、彼ら彼女たちは、自分たちが生まれる前の世界の中に見事に収まっている。
塩谷瞬、沢尻エリカ、高岡蒼佑、楊原京子、真木よう子、さらにオダギリジョーたち若手・新人たちを関西のお笑い系や『男はつらいよ』の前田吟、余貴美子、笹野高史、大友康平、光石研など脇役陣がしっかり支えている。
グループサウンズから始まり、女性にもてるためにギターを買いフォークソングを習い始る塩谷瞬は、楽器店で出会った酒屋の若主人で自由人オダギリジョー(好演)の生き方に、感銘を受ける。スウェーデンに渡ったオダギリは、帰国した時にピッピー風の長髪と髭のスタイルに変貌しているシーンも時代を象徴する見所のひとつだ。
『パッチギ!』は、対立する高校生たち、敵対するグループのなかで、お互いに惹かれう、男女、そして大切な友人が喧嘩で死ぬというパターン、そう、あの『エウスト・サイド・ストーリー』つまり『ロミオとジュリエット』を下敷きにしているラヴストーリーでもある。
主役の4人、塩谷瞬、沢尻エリカ、高岡蒼佑、尾上寛之が初々しく輝いている。尾上以は、関西出身ではないけれど、「ほんまの関西人や」、と思わせるほどツボにはまっている。最初はたよりない友人の真似をしていた塩谷瞬が、朝鮮高校で江尻エリカが「イムジン河」を演奏するシーンをみかけてから、オダギリジョーにギターを習い、自分で弾きながら唄えるようになる。それも、沢尻エリカに会いたいがためなのだ。
塩谷瞬は沢尻エリカを「フォーク・クルセダーズ」のコンサートに誘うが、逆に沢尻エリカは公園で演奏会があるからと、塩谷を招待する。現場に行くとそこでは、沢尻の兄・高岡蒼佑が北朝鮮に帰国するための送別の宴会が開かれていた。とまどいながらも、塩谷のギターとエリカのフルート演奏で「イムジン河」を唄いだすと、宴会の雰囲気が微妙に和らいで行く。その空気を伝える感覚、おもわず引き込まれる秀逸なシーンである。
その後、塩谷はエリカに「つきあってくれ」と懇願すると、エリカは「もし結婚することになったら、朝鮮人になれる?」と聞き返す。すくなくとも、1968年の空気は、在日への差別意識が日常的だったことを考えれれば、二人の関係自体が、2004年から回顧した1968年ということになるだろう。
青春時代とは、一種のほろ苦さとともに想うものかもしれない。ところが、原作の松山猛と原作を脚色・監督した井筒和幸の青春時代を、回顧的にではなく、まさしく同時代の若者として描いているからこそ、普遍性を獲得しているのだ。
在日の女性にあこがれるのは『GO』の逆パターンだが、彼女の兄が朝鮮高校の番長であり、その舎弟の死に続く葬式シーンでの笹野高史のせりふ「お前たちとはちがうんや」から始まる在日一世の悲劇こそ、知らないでは済まされない重さがある。笹野高史のことばに正面から対峙できる思想があるのだろうか。
最近流行の韓流ドラマが一気に、在日の問題を超えてしまったかのように見えるけれど、実は在日問題を隠蔽しているのが、現実の実態ではないだろうか。
崔洋一×ビートたけしの『血と骨』が、あまりに救いがなっただけに、『パッチギ!』は在日を問う青春映画の傑作として、対等の位置にある。TVではでかい態度のオヤジである井筒和幸は、映画監督として代表作といえるフィルムを撮ったことは賞賛に値するだろう。拍手をを送りたくなる映画だ。爽快な味わいと在日の重さが違和感なく混在するフィルム的磁
場となっている。
「イムジン河」とは、男子高校生と在日の恋人を分かつ河であり、対立する集団を分かつ河でもあり、実際は朝鮮半島の38度線上にある河の名であるが故に、つい最近まで発売禁止とされていたザ・フォーク・クルセダーズのセカンド・シングルであり、2002年オリジナル盤が発売されていることを申し添えておきたい。
- アーティスト: ザ・フォーク・クルセダーズ,朴世永,サトウハチロー,松山猛,青木望,ありたあきら
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2002/03/21
- メディア: CD
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『パッチギ!』公式ホームページhttp://www.pacchigi.com/
- 作者: 松山猛
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■井筒和幸の代表作
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