みなさん、さようなら
カナダのケベック州出身の映画監督ドゥニ・アルカンの『みなさん、さようなら』(Les Invasions barbares,2003)を遅ればせながら観る。言葉はフランス語。大学教授の父親レミがガンを宣告され死の直前にある。女好きでこてこてのマルクス主義者。
息子は、そんな父に反発してロンドンで証券会社に勤務し、父の10倍の年収がある。別居中の母が、息子を呼びもどす。父の友人たちを招き、父の死に際して旧友たちとの最後の時間をもつよう母が要請したのだ。父と息子の和解がテーマだが、二人には大きなわだかまりがある。父の愛人だった女性の娘ナンシーが薬物中毒で、その娘の力を借りてガンによる痛みをモルヒネで和らげようという試みを依頼する。レミは無神論者なので、キリスト教のシスターからの助言にも耳を貸さない。レミは、自らの死をどう受け止めていいか解らないのだ。
父レミをめぐる友人や元愛人などが集まり、楽しい会話がはずむ。一方、レミ親子の仲は冷えたまま。モルヒネを提供するナンシーの看護によって、レミは自らの死を選択することを了解する。また、ナタリーは、レミを看護するうちに薬物中毒から脱出することを学ぶ。
そして迎える父の死の直前、息子との和解が成立。快楽主義者の死は、周囲の配慮もあり、あくまで、唯物論者としての死を選ぶ。
ドゥニ・アルカンは、この作品が初見であるけれど、『アメリカ帝国の滅亡』(1986)と『モントリオールのジーザス』(1989)の二本のみ、日本公開されている。私は未見。本作は、『アメリカ帝国の滅亡』のメンバーが出演し、続編のかたちをとっているらしい。2004年度アカデミー賞最優秀外国映画賞を、山田洋次『たそがれ清兵衛』と争った作品であり、カナダのモントリオールを舞台にフランス語で製作されたフィルムである。
快楽主義者でマルクス主義者の死をあつかっている点で、上記『誰にでも秘密がある』とは、まったく異なる世界を描いているようだが、<生と性と死>の意味を問うという点では、共通の土台がある。映画は、時代や国境を超えて繋がっている。
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