海猫
休日のシネコンは、宮崎駿『ハウルの動く城』や『いま、会いにゆきます』などに長蛇の行列ができており満席状態で、目当ての『ハウル』を観るのはもっと先になりそうだ。
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とりあえず、森田芳光『海猫』(2004)を観ておく。森田作品としては、めずらしく叙情的な物語であった。函館に住む伊東美咲は、漁師佐藤浩市のもとへ嫁ぎ、子供をもうけるが、義弟の仲村トオルにも惹かれて行く。典型的な三角関係の恋愛映画。
伊東美咲はモデル出身であり、脇を固める俳優たちとは、まったくことなる雰囲気を持っている。そのことが、逆にこの映画を新鮮にしている。美咲のせりふの不自然さは、皮肉なことに見事というほかない。
佐藤浩市による海の男の荒々しさは、この作品では損な役どころだが、いわば自然を相手に肉体的労働をしているわけで、存在感の大きさは、仲村トオルや深水元基(美咲の弟)を完全に圧倒している。
仲村トオルは、実家から疎外された存在であり、兄の一番大切な妻を奪うことで、自己を確立しようとする。温厚な表情のなかに熱い想いが込められた表情やしぐさは、役者としての成長ぶりをみせている。
伊東美咲の存在感の希薄さは、この映画では成功している。肉体的な兄と精神的な弟の双方から愛されることは、幸せであるとともに、決定的な不幸をももたらすのはドラマとしても自然な流れである。
それにしても、いつもの森田的世界とは微妙に異なるのだ。
何より、あまりに自然の風景の中に収まり過ぎている。テンポをずらせるとか、音と映像のズレ、あるいはカットのつなぎに工夫を凝らすとか、ジャンプカットを多用する森田節はみられない。唯一、森田印が刻印されているところは、ラブシーンのスローモーション・コマ落としくらいか。
『家族ゲーム』の斬新さもなく、『それから』の画期的映像によるドラマの昇華もなく、『阿修羅のごとく』のシニカルな軽快さもない。人工的な映像を排した壮大なメロドラマになっている。空ショットで絵をつなぐなどきわめて正統的な撮り方になっていて、森田らしくないが正統派恋愛メロドラマとして、成功しているといえるだろう。
二人の成長した子供から母としての伊東美咲の過去を知るという構成になっていることで、より悲劇性が増幅されている。不覚にも、思わず涙がこぼれそうになった。
佐藤浩市とその母・白石加代子が大地に根付く生活派とすれば、伊東美咲や仲村トオルは故郷から離れた都市派であり、善とか悪の図式でみる映画ではない。観る者の位置が試されることになるフィルムである。
【恋愛】特定の異性に特別の愛情を抱いて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえらねないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態。 『新明解国語辞典 第四版』(三省堂)より
『海猫』(2004)公式ホームページ
http://umineko.biglobe.ne.jp/index.html
■森田芳光代表作
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