ドッグヴィル



ラース・フォン・トリアーのカンヌ無冠の話題作『ドッグヴィル』(2003)を観る。上映時間が、約3時間(177分)はあまりにも長く感じられ、これまで敬遠していた理由だ。しかし、この実験的フィルムは、観て正解だった。


まず舞台装置、倉庫の床に家や道などが線で描かれただけの前衛的装置。こうなれば、完全に舞台劇といえるだろう。『奇跡の海』(1996)と『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)の作家だ。只事では済まないことは、観る前から予測できる。実際、177分は、緊迫感の連続であり、凡庸なる民衆への警告と受け取った。


場所はアメリカ、ロッキー山脈の麓の小さな村ドッグヴィル。そこに突然若い女性グレース(ニコール・キッドマン)が、ギャングから逃れてくる。彼女をかくまったのは、村一番のインテリで自称作家トム(ポール・ベタニー)。トムは、グレースに村人たちのための労働をさせることを条件に、彼女をかくまうことに成功する。


村人たちは、凡庸ではあるがきわめて個性の強い人々。あのローレン・バコール、カサヴェテス・ファミリーのベン・ギャザラ。『奇跡の海』でエミリー・ワトソンの夫を演じたステラン・スカルスゲールド、フォン・トリアー映画の常連ジャン・マルク・バール、そして、車でやってくるジェームズ・カーンなど一癖も二癖もありそうな脇役が揃っている。


警察が来て、グレースがお尋ね者であることが、村人に知らされると、グレースへの変質的な過剰労働や抑圧など平気で押し付ける。恋人になったトムは、グレースをかばうつもりで、全く逆の結果を招いてしまう。それでも、自己弁護をするのみ。トムこそが、最も親切に見える似非善人にほかならない。


ラスト・シークエンスは、観る者に、寛容と抑圧の差異を知らせるだろう。グレースは、平凡で貧しい民衆の前にあらわれた踏み絵的存在である。グレースが、最後にとった態度をどう見るかで、この作品の評価が、180度異なる。私は、グレースを、神が使わした使徒であるように思えた。誰もが、ここに置かれたとき、どのような行動をとることができるかが問われている。村人たちの掟、それを破壊し新しい村へ生まれ変わることができるか。
答えは、ラストシーンにある。


それにしても、女優ニコール・キッドマンは、『ドッグヴィル』の出演で完全なる演技派へ成長した。パチパチ!


ドッグヴィル』のホームページ
http://www.gaga.ne.jp/dogville/index.shtml


ラース・フォン・トリアー監督作品

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