珈琲時光
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侯孝賢監督『珈琲時光』(2003、日)。小津安二郎生誕百年記念映画。高島屋12階、新宿テアトルタイムズスクエア。9月19日(日)、午後2時の回は満席の盛況でした。
台湾の名匠、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)による現在の東京物語。冒頭、富士山に「松竹」のマークが現れたので、まず驚いてしまった。
ホウ氏による、小津安二郎へのオマージュということだが、基本的に小津と侯孝賢は、映画の技法が異なる。カットを重ねる小津に対してホウ氏は、フェイド・アウトで画面をつないでいる。小津のカットは短いが、侯孝賢は長回しで撮る。影響を受けているのは、手法ではなく映画を撮る姿勢のことだろう。
一青窈と浅野忠信の組み合わせも意外性がある。台湾土産として購入した懐中時計は、『東京物語』のラストで、笠智衆が、原節子に義母の形見として手渡したもの。その懐中時計が、一青窈から、古書店主・浅野忠信へと手渡される。この時点で、二人の関係は、いわゆる男女の関係ではなく、親しい友人どまりであることが分かる。
一青窈は、台湾人の恋人との間で妊娠していることが、帰省先の義母・余貴美子に告げられる。帰省と墓参。列車による移動は小津的世界。娘に肝心なことが言えない父・小林稔侍。残念なことに小林稔侍のみ、ミスキャストであった。ここは、大杉漣が適役であろう。
一青窈、小林稔侍、余貴美子の親子三人が、画面に背中を向けて、そばを食べるシーンは、小津安二郎では、壁に向かって並んでラーメンを食べる光景を、ズラしたもの。また、一青窈の白いブラウスは、原節子が好んで着ていたもの。などと、こんな風に、小津作品と比較してもあまり意味がないだろう。
一青窈の住むアパート(マンションではない!)は、鬼子母神駅の近くにあり、御茶ノ水、有楽町、高円寺、都電荒川線など、東京の風景が背景として映される。しかし、時代は昭和の雰囲気であり、唯一、携帯電話のみが、今を象徴している。何回か反復され、ラストショットで際立つ御茶ノ水駅の俯瞰には眼を見張る美しさがある。中央線、総武線、地下鉄丸の内線が交錯している光景。
ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』とは対照的な東京であり、ソフィアが、Tokyoを借景しているのに較べて、はるかに、東京を深く捉えている。
物語は、淡々としていて、一向に進展しない。侯孝賢の視点で観た東京。ここには、杉村春子がいない。おせっかいな叔母さん役として、例えば樹木希林がいて、『麦秋』のように、一青窈にアンパンを勧めると物語が展開していたかも知れない。あるいは、父が小林稔侍ではなく、大杉漣であれば、『晩春』の笠智衆のように、父の役割を果たしていたかも知れない。
この映画が、小津安二郎へのオマージュであり、生誕100年記念映画といわれても、一種の違和感は払拭できない。東京を舞台として、日本人が、日本語で演じているにもかかわらず、台湾映画のように感じてしまう。『恋恋風塵』を想起してしまう。一体、この違和感は、何なのだろか。
■侯孝賢監督作品
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