阿呆者
高橋源一郎からいえば、旧共同体に属するであろう車谷長吉『阿呆者』(新書館、2009)を入手。車谷氏は、自己の経験を繰り返し、反復している。本書の中では、「文学の基本」が断然面白かった。
- 作者: 車谷長吉
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2009/02/24
- メディア: 単行本
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文学の基本として大事なのは「他者性」の問題である。他者とは、決してこちらの思うように動いてくれない(思うようにならない)他人のことである。(p.23)
「小説になる・ならない」はどういうことか煩悶した。車谷氏によれば、「文学的場所(トポス)」が現われているかどうかである、という。石川桂郎『蝶』をほぼ全文引用し、
文学においては「非日常的な時空間」を作りだすことが大事なのである。(p.41)
文学に向いている人・向いていない人の問題について、
世の中には、四種類の人間がいる。「頭のいい人」「頭の悪い人」「頭の強い人」「頭の弱い人」。「頭のいい人」とは、恥や外聞を気にし、なり振りをかまって生きている人。すなわち打算的人間。この手の人は、大学助教授・教授に多い。「頭の強い人」とは、恥や外聞を気にせず、なり振りかまわない生き方をする人、利害損得の計算をしない人、この種の人が一番、文学に向いている。(p.41−42)
いかにも、自らの生き方を「阿呆者」と規定する車谷長吉らしい。その車谷長吉が評価する作家の短編を集めたのが、『文士の意地(上・下)』(作品社, 2005)になるだろう。佐藤春夫、森銑三、永井龍男、幸田文、石川桂郎たちの短編が採録されている。
- 作者: 車谷長吉
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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高橋源一郎のいう同じ共同体のひとたち。わたしには、この共同体の作家の短編に様々な文体、文章の味わいを感じる。そして「非日常的空間」の出現に親しみが持てるのだ。*1それでも、OSを更新しなければならないのだろうか。古いOSに捨てがたい味わい深い文章がある、と思うのだが。
- 作者: 車谷長吉
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*1:『文士の意地』収録短編群は、日を改めて書いておきたいと思っている。