実録・連合赤軍
若松孝二『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)を観る。観ることのつらさを克服すれば、この作品のもつ意味が明らかになる、そんな映画だ。
降雪のなかを一列に歩く九人の姿が捉えられると画面は一転、1960年の安保闘争に遡及する。60年安保とそれ以後、ケネディ大統領暗殺事件、ベトナム戦争、毛沢東の文化大革命などのニュースに続いて、1966年の明治大学における「学費値上げ反対闘争」に若き重信房子(伴杏里)と遠山美枝子(坂井真紀)の姿が映される。1967年、再び明治大学の重信と遠山。原田芳雄によるナレーションは、60年安保で重要な役割を果たした共産主義者同盟(ブント)が、中核派や解放派と組み三派全系学連が68年にかけて学生運動を展開して行くことを述べる。
- 作者: 「実録・連合赤軍」編集委員会+掛川正幸
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2008/02/20
- メディア: 単行本
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以後、1969年の安田講堂の攻防戦を経て、塩見孝也議長のもと「赤軍派」が結成される。新宿の酒場で宮台真司扮する作家*1が、重信に札束を渡すシーンがある。一方で「革命左派」の永田洋子(並木愛枝)たちの動きを追う。「赤軍派」による大菩薩峠の爆破事件、「革命左派」による銃砲店襲撃など、両派の「歴史」を押さえながら「連合赤軍」の結成に至る過程を克明に描く。
榛名ベースにおける「総括」と「粛正」の恐るべき実態が、リアルに再現されている。重信と別れ軍事訓練に参加した遠山は、「赤軍派」と「革命左派」の確執のなかで、「総括」を問い続けられ死にいたる。「総括」を支配したのは、森恒夫(地曳豪)と永田洋子であったことは周知のとおりだが、その内実は部外者には図りがたいところがある。
森と永田が、山岳アジトから離れたときに逮捕される知らせをラジオのニュースで聞くメンバー。やがて権力の手がまわり、残された戦士たちは逃避行の旅となる。最後に九人となったが、五人と四人の二手に別れたあと、植垣康博(中泉英雄)ら四人は駅のホームで逮捕される。
残された五人とは、坂口弘(ARATA)、坂東國男(大西信満)、吉野雅邦(莵田高城)、加藤倫教(小木戸利光)、加藤元久(タモト清嵐)であった。あさま山荘には管理人の妻(奥貫薫)一人がいたが、彼女を保護(監禁ではなく)し、10日間にわたって官憲と戦う。山荘内からのみ事態の進行を捉え、機動隊や戦士たちの家族の声のみが画面にインされる。
徹底して「連合赤軍」の内部から描いた若松孝二の方法は、氏の反権力の姿勢そのものである。これが映画としてきわめて密度の高いフィルムになった。未成年(当時16歳)の加藤元久が仲間の四人に「俺たちみんな、勇気がなかったんだよ!俺も、あんたも、あんたも、坂口さん!あんたも、勇気がなかったんだよ!」といわせる時、年少者として参加し少しでも距離をもった加藤少年のことばに、「連合赤軍」の「総括」をさせている。
- 作者: 立松和平
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/07
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高橋伴明監督・立松和平原作『光の雨』(2001)は、「連合赤軍」をモデルとしたメタ映画として、見ごたえがあったが、若松作品と比較すべきではない。『実録・連合赤軍』は、推測するにかつて『赤軍−PFLP 世界戦争宣言』(1971)を撮った若松氏の執念の成果というべきだろう。もちろん、佐々淳行原作を映画化した『突入せよ! あさま山荘事件』(2002)などは、権力の側からみた一方的作品であり比較・評価に値しないことは言うまでもない。
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本作品によって、「連合赤軍」は「カノン」となった。その評価は歴史が下すだろう。わずか40年近く前に起きた事件だが、その残虐さによって目をそむけるのではなく、直視しなければならないだろう。「連合赤軍」に参加した若者は10代から20代の青少年だった。「革命」ということばに「理想」をみて、命を賭けて行動した若者たちがいたことを忘れてはなるまい。
■補記(2008年6月02日)
あさま山荘にたどり着いた五人の赤軍戦士たちの行動は、「粛清」を経た負い目を持つがゆえに、きわめて倫理的態度を貫徹する。山荘の管理人に接する態度の堂々たる慎ましさ。彼らが当面の敵と措定した公安や機動隊との実戦に徹することこそが、目的を同じくしながらも死に至った仲間たちの霊を背負うことにほかならないからだ。闘いの最後近く、坂口、坂東、吉野たちが、管理人の妻に「中立」の立場でいて欲しい、そして坂口(ARATA)が「強行手段に出た場合は全力であなたを守る」と説得するときが、赤軍戦士たちの志が伺えるシーンだ。
ラストシーンは、森恒夫が正座し仲間に宛てた手紙が朗読される。自死する直前の森は「今ぼくに必要なのは、真の勇気のみです。はじめての革命的試練。−跳躍のための。」と遺書をしたためた。
書き残した二点を補記しておきたい。
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