ハチミツとクローバー


人気コミックの映画化で話題を呼んでいる『ハチミツとクローバー』を観る。監督はCMディレクターの高田雅博。原作(羽海野チカ)は読んでいないので、映画のみから判断する。


ハチミツとクローバー ―PHOTO MAKING BOOK

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美大生で同じアパートに住む竹本(櫻井翔)と真山(加瀬亮)、外国から帰国した森田(伊勢谷友介)。美大の花本先生(堺雅人)の従姉妹”はぐみ(蒼井優)”が転入してきたことで、それぞれの関係が微妙に変化していく。真山に一途に思いを寄せるあゆみ(関めぐみ)、一方、真山はバイト先の建築事務所の理花(西田尚美)へストーカー的な片思いをしている。


竹本と真山がはじめて”はぐみ”に会う瞬間、竹本は”はぐみ”が絵を描いている姿を見て恋に落ちる。帰国した森田は、”はぐみ”の才能を見抜き、彼女に関心を抱く。森田は個展を開くが、”はぐみ”は、森田の作りたい作品ではないものが展示されているのに心が揺れる。森田から思いを寄せられ、オスロ国際ビエンナーレへ出品する絵も描けなくなる。森田と”はぐみ”は、彼らの中では突出した才能をもっている。それゆえ、芸術への思いとしての悩みは深くなる。


五人、それぞれの恋の思いが一方通行の形ですすむ。恋愛の不可能性を「芸術」を介在させることで、「生きる」ことの意味を問うフィルムとして、『ハチミツとクローバー』は構成されている。


単純なボーイ・ミーツ・ガールものが、映画的な原型だが、すれ違いも一つのテーマだった。恋愛の不可能性を常にテーマとして描いているのが、香港のウォン・カーウァイだ。*1

楽園の瑕 [DVD]

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「恋愛と芸術」も、実は「芸術と実生活」の問題からみることができる。とりわけ芸術家は、将来的な生活の保障がない。森田の造型作品が個展では500万円という価格。加藤兄弟の演出による個展によって商品化されるが、森田自身が満足できていないと、”はぐみ”の眼の前で燃やすシーンがある。芸術的な価値というのは、判断が難しい。作者の意図や満足度と商品価値は、必ずしも比例しない。


森田と”はぐみ”は、自分の芸術性を高める志向性が強い。その点では、もっとも凡庸な竹本が、普通の大学生の悩みとして、芸術の世界では浮いてしまうことを示している。しかし、俳優としてみれば、初の主役・櫻井翔は健闘していて好感が持てる。キャララクターの造形では、加瀬亮の変幻自在な役柄への挑戦が良い。関めぐみは美しすぎる。”はぐみ”役の蒼井優は、これまでの作品の延長上にあり、伊勢谷友介も芸術家の卵として尊大な雰囲気を巧みに出している。


「芸術と実生活」の問題からいえば、実生活の「恋愛」をいかに「芸術」に取り込むことができるか、にかかっている。「恋愛」を回避あるいは迂回することで、「芸術」的達成が可能かどうか。「商品としての芸術」という資本主義社会における普遍的な問題が根底にある。

*1:楽園の瑕』は、複数の主人公がそれぞれ、恋の一方通行に終始する「恋愛の不可能性」を描いた傑作である。