うつうつひでお日記


吾妻ひでおうつうつひでお日記』(角川書店)を読む。「事件なし、波乱なし、貧乏、神経症、冷やしラーメン、そば、本屋、図書館」しかでてこない著者の、2004年7月7日から2005年2月16日までの日記、つまりあの大ヒットとなった『失踪日記』発売前の、8ヶ月余りの記録。漫画としての物語性を期待しても、はぐらかされる。ほとんど同じような行動パターンの反復日記になっている。


うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)


吾妻ひでおが失踪したのが、1989年11月と1992年4月の二度で、89年の失踪から入院までを描いたのが『失踪日記』、それも著者によれば10年かけたそうだ。とすれば、しかも『うつうつひでお日記』を読むと、『失踪日記』の続編の刊行時期は予測できないということになる。


失踪日記

失踪日記


朝といっても昼ちかい場合が多く、朝食はトーストとコーヒー、昼食はめん類、散歩にでて本屋と図書館をまわり、アイスクリームを買って帰る。読書量も半端ではない。時々、紙面に少女のイラストが描かれる。吾妻氏の理想の少女だそうだ。表面的には、だらだらした生活に見えるけれど、つねに漫画のネタを考えているから、プレッシャーとの闘いの日々、ということになる。


単調に見える日々の日記は、心理的には「うつ状態」で著者にとっては大変きつく、つらい日常生活。それを漫画化することで、戯画化=相対化している。吾妻ひでおの生活から連想するのは、つげ義春だ。寡作の前衛的・私小説的作風は、吾妻ひでおの少女への志向性とは異なるけれど。


ねじ式 (小学館文庫)

ねじ式 (小学館文庫)


ここは「芸術と実生活」(平野謙)という問題からみることができる。この関連から映画『ハチミツとクローバー』に話題を移そう。


芸術と実生活 (岩波現代文庫)

芸術と実生活 (岩波現代文庫)