真夜中のピアニスト



ロマン・デュリスの思いつめた表情が、フィルム・ノワールの雰囲気がただよう暗い夜の光景のなかで渋く輝く。不動産のブローカーの仕事をしながら、ピアノのオーディションのための練習に通うという設定の卓抜さ。といっても『真夜中のピアニスト』(2005)は、カルトムービーといわれるジェイムス・トバック『マッド・フィンガース』(1978)のリメイクではある。父親(ニール・アルストラップ)の影響下で仕事をしているが、死亡した母親がピアニストであり、父の暴力的な夜の世界と母親の芸術的な世界に引き裂かれているトムの心情を見事に引き受けているロマン・デュリスは、トニー・ガトリフの映画でみせる表情とは異なって、硬質な印象を帯びている。


ロマン・デュリスにピアノを教えるのが、中国人留学生のリン=ダン・ファン。中国語とフランス語が交錯しない状態でも、ピアノを通して心が通い合う。この二人の接近のプロセスがいい。ピアノオーディションの前夜、不動産仲間から仕事がらみで誘われ心が乱れてしまう。当然、オーディションにも平穏な気分では望めない。オーディションに失敗し、帰宅して見たのは父の惨殺された死体だった。


2年後、リン=ダン・ファンのマネージャーとなったロマン・デュリスは、父を殺害したロシア人に偶然出会う。格闘の果て、相手の拳銃を奪い顔面に銃を充て憎しみが頂点に達せんとした瞬間、心が平静に戻って行く。穏やかな表情で、リン=ダン・ファンのピアノ演奏を見つめる瞳。今が旬のロマン・デュリスの魅力全開のフィルムになっている。


俳優とししての幅の広さを見せてくれるロマン・デュリスは、今フランスで一番注目を浴びている俳優であり、今後、様々なジャンルに挑戦し続けてほしい貴重な存在だ。アラン・ドロンジャン=ポール・ベルモンドがかつてフランス映画俳優として、世界的レベルを代表する存在だった。以後、俳優で見せるフランス映画は久しくなかった。ロマン・デュリスの登場にこそ、フランス映画が輝きを取り戻す可能性がある。


ロマン・デュリスは、監督に恵まれた。最初の出会いがセドリック・クラピッシュ『青春シンドローム』(1994)『猫が行方不明』(1996)、トニー・ガトリフガッジョ・ディーロ』、そして『真夜中のピアニスト』のジャック・オディアール。


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